ある日、○○クレジットとか△△ファイナンスから、ご主人が車を買うことになったので連帯保証人になって頂けますねとの電話があった。聞けば、既に売買契約書とローン契約書には自分の名前が書き込まれ、印鑑も押されているらしい。具体的な話は夫から聞いていなかったが、夫婦間のことでもあるしその電話にハイと答えてしまったという。
これは実際にあった話ですが、そもそも署名押印していないのに、電話連絡だけで連帯保証契約が成立するのか疑問を感じていました。なぜなら、民法には保証契約は書面でしなければ、その効力を生じないと書かれているからです。いくら夫婦間とはいえ、電話の同意だけで保証契約は成立しないのが原則です。
本事案は、夫の電話機リース債務(約25万円)の連帯保証人とされた妻が、保証契約は無効だとして争ったものです。債権者側は妻が自ら署名押印して保証契約書を作成した、妻に電話をかけ本人であること及び保証の意思を確認した、民法のいう保証の要式性は書面が作成されることで足り、保証人が自ら署名押印する必要はないなどと主張しました。
これに対して妻は、署名も押印も自らしたものではなく契約書の作成に一切関与していない、電話を受けた事実も保証意思の確認に応じた事実はない、民法の趣旨からして保証人自身が契約書に署名押印しなければ保証の効力は生じないと反論しました。
前審の東京地裁は保証債務の成立を認め、妻に25万円の支払いを命じました。ただその理由が電話確認の有効性を認めたためか、【営業003】にみる営利性を重視したためかなどについては不明です。
これに対して高裁は原審を取消し、保証契約の成立を否定しました。理由として、保証債務は書面でしなければならないとした趣旨は、保証人となろうとする者が保証債務の内容を了知した上で、保証意思を表示した場合に限り保証契約は効力を生ずるとしたものであること。本事案では保証契約書の自署、押印が妻によってなされたものと認めるに足りる証拠がないこと。債権者側が電話し、出た女性に氏名、生年月日、保証意思を確認したとしても具体的にどのようなやりとりがあったのか明らかでないことなどを挙げました。
メーカーや販売会社は売れればよいのですから、保証人の意思確認をおざなりにしたのでしょうが、保証人欄に名前があればよいというものではありません。一方保証人側は、例え夫婦間であっても、軽々に電話などで保証人を引き受けてはなりません。
保証は、なにかと問題を生じがちな制度です。とりわけ被相続人が保証債務を負っていることを知らなかった、本事案のケースが離婚がらみの場合だとしたら離婚後まで保証債務を引きずるのか、保証の範囲が大きく重大なのに義理がらみで引き受けがちな身元保証の問題などがあります。安易な保証人引受は、財産だけでなく対人関係をも破壊するという危険がありますので十分ご注意ください。