アパートやマンションを借りているときには、当然のことながら家賃を払わなければなりませんが、払わなかったらどうなるかがまず問題となります。
大家である賃貸人側から契約を解除するとは言えますが、それほど簡単ではありません。大家さんが解除するには、賃借人が信義則に反する行為をしたり、賃借人が大家さんとの信頼関係を破壊するような状況になっていることが必要です。
判例では、賃貸人に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情がある場合は、賃貸人は解除できない(最判S28.9.25)などと非常に分かりづらい言い回しがされていますが、簡単にいうと、借り手が大家さんに対して背信行為をしたと言えない程度なら解除できないということです。
どの程度なら背信行為になるか、一律な決まりはありませんが、借りている部屋をひどく汚したり、度々家賃を払わなかったり、三ヶ月分以上滞納すると背信行為だとして解除される可能性があります(最判S37.4.5)。
預金残高不足などで不払いとなるのはママある話で、翌月に請求して2ヶ月分払ってもらえれば信頼関係を損なったとはいえない。しかし翌々月に再度請求して音信不通だとなれば、それはもう放置するわけにいかないぞということかと思います。敷金が家賃2ヶ月分とされることが多いのも、この辺に理由があるのかもしれません。
さて本事案では、月給20万円ほどの収入があった賃借人が派遣社員となり、給料が月額7~8万円程度に下がった。生活保護を受けて暮らすことになったが、家賃を払いきれず数回滞納したので、大家である管理会社が鍵を交換して部屋に入れなくしてしまった。そこで自分の部屋に入れなくなった賃借人が、損害賠償と慰謝料を請求したものです。損害賠償は部屋を使用できなかった期間の賃料相当額、慰謝料は数千円入った財布や携帯電話のみという着の身着のまま路頭に放り出されたことで、精神的苦痛を被ったことに対するものです。
裁判所は、鍵を交換して賃借人を建物から閉め出すのは、間接的に未払賃料の支払いを促そうとしたものであろうが、通常許される権利行使の範囲を著しく超える。平穏に生活する権利を侵害する不法行為だとしました。
また例えば、借金のカタに相手の持ち物を勝手に持ってきて売り払ってしまうような行為は、自力救済と呼ばれ禁止されていますが、本事案は自力救済にもあたらない。(自力救済、自救行為については不動産関係工事003を参照)
すなわち賃借人の持ち物を持ってきたわけでもないし、前提となる契約解除もしていないので、単なる建物の不法侵奪にすぎないとしました。併せて、鍵交換の際に不法侵入があった可能性も認めています。
大家である管理会社は、賃借人の連帯保証人から鍵を交換されても仕方ないとの同意を得たと主張しましたが、それは大家側の度重なる督促電話に疲れ切ったうえでのことで、保証人が積極的に鍵交換を要請したものではないともしました。ここまで言われてしまったら、まず大家側に勝てる見込みはないでしょう。
結局のところ、大家側には逸失利益9万円余、慰謝料として50万円の支払が命じられました。通常の見地からしても、家賃滞納をしているとはいえ、部屋に帰ってみたら鍵が合わずに着の身着のまま放り出されるというのは、いささか酷な仕打ちと思われます。
本事案では、賃料回収という正当な権利はあったものの、その行使のし方によっては逆に不法行為を問われかねず、場合によっては住居不法侵入、器物損壊など刑法で処罰されかねません。賃貸借契約では、依然として借り手の保護が手厚いことが法律上注意すべき点として挙げられます。