ワールドカップを現地で観戦しようとツアーに申し込んだが、大会主催者の事情でツアー出発までチケットが確保できなかった。試合観戦ができるかどうか、現地での抽選次第という状態のままツアーに参加せざるを得なかったというもの。運良く現地での抽選に当選して試合の観戦はできたものの、参加者は出発から抽選までのあいだ不安にさらされ精神的損害があったとして、旅行会社に損害賠償請求した事案です。
そのような事態を招いたことに対して、旅行会社はツアーに参加して試合観戦ができなかった場合には旅行代金を払い戻す、または無条件で参加申込みの取り消しに応じるとしました。申込者は、試合が観戦できないリスクを覚悟でツアーに参加するか、申込みを取り消すかという選択ができますが、いずれにしても観戦できなければ代金の払い戻しが受けられます。
裁判所はこれらの事情を踏まえた上で、旅行会社の債務不履行責任すなわち損害賠償責任は認めませんでした。判決のなかで旅行サービスをどのようにとらえたかというと、旅行サービスは運送、宿泊等種々のサービスからなるものだから、一旅行業者がその全てを旅行者に提供することを直接保障するのは困難だとしました。そして旅行業者の責任は、それらサービスの手配をするにとどまるとして旅行業者の責任の範囲を限定しました。
これを本事案にあてはめてみると、観戦チケットは航空機、ホテル、食事等の予約のなかのひとつであり、旅行業者がそれらを予約する業者を選択するにあたって、なすべき調査をしていれば債務不履行責任を負わないということになります。これは、元請け業者が下請け業者がした過失責任も負うという、履行補助者の責任にあたるとも思われます。つまり、旅行業者は原則として履行補助者がした過失の責任も負うが、履行補助者の選任と監督両面でなすべきことをしていれば、免責されるというルールです。
ただ本事案において試合の観戦は旅行の中核をなす行事ですから、ワールドカップというイベントそのものに対する旅行業者の見通しが甘かったと言わざるを得ないのではないでしょうか。とすれば、前述の履行補助者に対する責任を負担するために無条件での取消しを認めたり、参加した場合でも観戦できないときには代金を払い戻すといった旅行業者の丁寧な対応も、評価されたのかもしれません。
もっとも他の事案では、ツアーで提供されたホテルや食事、交通手段などがあまりにも当初の予定とは異なるとして損害賠償が認められたケースもあり、事前・事後の旅行業者の対応いかんでは責任を追及することは可能かと思われます。