カタログショッピングやネット通販、産地直送などで買い物をする、あるいは仕事で宅配便を使う機会が増えています。本事案では貴金属を宅配便で送ったところ、運送途中で荷物をどこかに紛失されてしまったので、400万円近くの損害賠償を宅配会社に請求したものです。なお運送約款には責任限度額30万円、宝石類は引受を拒絶することがあると記載されていました。
一審地裁では一部請求が認められましたが、二審と最高裁では請求が棄却されました。
その理由は損害賠償額を責任限度額の範囲内に限定しないと、そもそも限度額を定めた意味がないこと。そして賠償を限度額の範囲に限ったとしても、運送会社に故意または重大な過失があれば、不法行為による損害賠償ができるのだから問題はないとの判断によるものです。
ここで注意すべきは、債務不履行に基づく責任と不法行為による責任とを明確に分けていることです。債務不履行責任は運送という契約に付随する責任ですが、不法行為責任は契約関係がなくても成立します。この二つの責任のいずれにあたるかを、故意または重過失があったかどうかで分けて考えたということです。ちなみに、債務不履行以外の請求権には不法行為のほか事務管理や不当利得があり、その呼び方も損害の賠償、費用の償還、利益の返還などといった区別がされています。
なお、ホテルのフロントに預けなかったために貴重品が紛失した責任が争われた事件でも、本事案と同様、ホテル側に故意または重過失があったかどうかによってホテルの賠償責任が判断されました(最判H15.2.28)。万が一に備えるのであれば、別途損害保険を使うなど運送会社と十分に事前の取り決めをしておきたいところです。