会社の従業員には色々な肩書きがあります。
最近は○○代行、○○代理、○○補佐、副○○、担当○○といった肩書きが濫発されていて、当人にはどのような権限があり、どこまで責任を負ってくれるのか分かりづらくなっています。
行政組織であれば、委任、代理、代決や専決など、代行について権限と責任の所在は決められており、肩書きもそれに応じてつけられています。
しかし会社もそうかといえば、どうも明らかではなく、肩書きを使って会社が認めていない取引をしたために問題になるケースは多々あるようです。
商法や会社法では使用人を3つに分け、一つめは支配人、二つめはある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人(従来は番頭や手代と呼ばれていた)、三つめは物品の販売を目的とする店舗の使用人としています。
当然に一つめの支配人の権限は最も大きく、商人は支配人として登記しなければなりません。会社法では登記する義務はありませんが、営業に関する一切の裁判上及び裁判外の責任を負います。商法と会社法が交錯する場面ですが、例えば個人商店の共同経営者や代表権のある取締役が該当します。
支配人と誤認されるような行為をすると、たとえ肩書きが営業所長や出張所長などであって登記されていなくとも、表見支配人として責任を負うことがあります。
二番目の主任者である使用人は、当該営業所の営業に関して、一切の裁判外の行為ができます。例としては取締役にすぎない営業部長、事業部長などがあり得ます。
三番目の使用人は、その店舗にある物品の販売等の権限があります。例えばスーパーの店長などです。
本事案では、営業係長という肩書きで売買契約を結んだが、会社はその係長は二番目の主任者にあたらず、契約締結までは認めていないので、契約は無効だと主張したものです。
これについて裁判所は、事業の主任者たる使用人はその事項に関し一切の裁判外の行為をなす権限を有する。
その趣旨は反復的・集団的取引であることを特質とする商取引において、取引の都度その代理権限の有無及び範囲を調査確認しなければならないとすると、取引の円滑確実と安全が害される虞がある。
主任者であると主張する者は、当該使用人が営業主からその営業に関する、ある種類又は特定の事項の処理を委任された者であること及び、当該行為が客観的にみて右事項の範囲内に属することを主張・立証しなければなならいが、右事項につき代理権を授与されたことまでを主張・立証する必要はないとしました。
すなわち、本事案で契約を有効だと主張する側は、主任者の肩書きが何であれ、主任者がした行為が客観的に取引の範囲内であれば有効と認められるということです。
売買契約書に主任者が署名捺印していれば、客観的には取引の範囲内に属するとみられるでしょうから、代理権を授与されたと信じることにつき重大な過失がなければ、契約は有効になるでしょう。
なお、取引の額が大きくなると二番目の主任者ではなく、一番目の代表取締役などの支配人にしか権限が与えられていないケースが多いようです。
建築営業部長の肩書で億単位の取引をした事案(東地判H14.5.31)では、当該営業部長が表見支配人にあたるとして会社の責任を問われましたが、裁判所は表見支配人の類推適用を認めることは営業主の責任を不当に拡大するもので許されないとして認めませんでした。また特定の事項の委任もなかったとして、会社の責任を否定しました。
もっとも、商法で規定されている支配人、使用者としての主任者や店長などを根拠にできなくとも、民法上の表見責任や使用者責任で会社の責任を追及する道は残されています。