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【事 案】 相続開始よりもかなり前になされた贈与に対して、遺留分減殺請求はできるか?新ネタ

【結 論】 贈与を受けた相続人に酷な特段の事情がなければ、減殺請求は認められ得る。(最判H10.3.24)

 設問が分かりずらいかもしれません。
 要は、相続人のひとりが親から生前贈与(特別受益)を受けた。それは、相続人の間で不公平な内容(遺留分を侵害していた)だった。そこで、もらえる遺産が少ない相続人は、もっと遺産をよこせといえるか(減殺請求権の行使)ということです。
 本事案は、被相続人である父親が死亡する9年前に、長男と長男の家族に遺産の大部分にあたる土地を生前贈与した。このため、長男以外の妻、子らが、生前贈与を受けた長男と長男の家族らに対して遺留分減殺請求をしたものです。

 最高裁は、相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるとして、遺留分減殺請求を認めました。
 要約すると、9年前にした生前贈与であっても、贈与を受けた者が、減殺請求により生活困窮になるといった酷な状況に陥らないときは、減殺請求は認めなさいということでしょう。

 まず民法は、遺留分の算定にあたって考慮される贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限ると定めています。9年前にされた贈与はこの要件にあたらないので、減殺請求は認められないことになります。
 しかし同時に、1年前の日より前にした贈与について、当事者双方(本事案では父と長男ら)が遺留分権利者(妻と長男以外の子ら)に損害を加えることを知ってしたときは、相続開始前の1年間にしたものと同様とすると定めています。これに当たれば本事案の減殺請求は認められます。

 そうすると問題となりそうなのは「損害を加えることを知って」された贈与かどうか、知ってされたものであれば減殺請求は認められるので、妻側は損害を加えることを知っていたと主張しました。贈与の当時、父親は67歳で財産増加の見込みはなかったというのがその根拠です。
 これに対して最高裁は、財産が減少するおそれはなかったから、妻らに損害を加えることを知ってされたとはいえないとして、妻側の主張は認めませんでした。
 ならば最高裁は、何を理由に妻側の主張を認めたのか。その答えは遺留分の趣旨で、遺留分とは一定の範囲において遺族の生活を保障するものであるとされています。すなわち、生前贈与を受けた長男側に酷となる特段の事情がなければ、妻らの生活を保障すべく遺留分減殺請求を認めるべきだとの結論になります。

【相続011】でも述べたとおり、特別受益(生前贈与)、遺留分、寄与分は、相続がもめる三大原因といっても過言ではありません。なぜなら何がそれにあたるか、どう評価するかは家族環境によって全く違うからです。さらに、してもらったとかしてあげたとか、亡くなった被相続人と相続人との生前の関係や感情的側面もあるので厄介です。
 本事案では土地価格の評価方法も問題になりましたが、それ以上に遺留分(減殺請求権)は極めて大きく評価されるという点です。遺産分割協議においても、遺言書をつくるにしても、相続人の遺留分を侵害する内容になっていないか、それが各々の相続人の生活にとって酷な内容だといわれないように、現実に即したキメ細かな配慮が必要です。

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