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【事 案】 債務者が他の相続人に遺産全部を与えたとき、遺産分割協議は取り消させられるか?

【結 論】 共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得る。(最判H11.6.11)

 何らかの負債を抱えている債務者が、第三者と組んで財産を隠したり、特定の債権者にだけ弁済するのは不公平です。そこで民法は、何らかの恩恵を受けた受益者と債務者とが、債権者に害を与えることを知ってやったときは、債務者のした財産隠しなどの行為を取り消すことができるとしています。
 これは、債務者がした不当な行為は、債権者が取消すことができるというもので、詐害行為取消権と呼ばれています。離婚の財産分与に乗じて妻に過分な財産を与える、遺産分割協議で特定の相続人に通常以上の取り分を与える、特定の債権者にだけ弁済する、第三者に市場価格より安く不動産を売る行為などが問題になります。
 とくに他人の借金の連帯保証人になったときなど、自分の財産を処分して自己破産を申し立て、責任を回避するケースが想定されます。

 本事案は、昭和54年に死亡した夫の不動産を相続した妻と2人の子が、遺産分割協議をしないでそのまま放置しておいた。夫が死んでから14年後の平成5年、妻は他人が借りた300万円の連帯保証人になったが、平成7年に主債務者が債務不履行になってしまったので、妻は債権者から弁済を求められた。そこで翌平成8年に遺産分割協議をして、妻が住んでいた家と土地全部を2人の子に相続させ、自分は自己破産を申し立てた。
 債権者だった信用金庫は、この遺産分割協議は詐害行為にあたるとして、これを取り消すよう裁判所に申し立てたものです。

 この事案は最高裁判所まで争われましたが、裁判所は、遺産分割協議はその性質上、財産権を目的とする法律行為である。共同相続人の間で成立した遺産分割協議は、詐害行為取消権行使の対象となり得るとして、信用金庫の主張を認めました。

 さて、ここで問題となるのは相続放棄との関係で、相続放棄に対しては詐害行為取消権の行使は許されないのです。はじめから相続人とならなかったものとみなされる相続放棄は、身分行為としての性格が強く、他人の意思による強制は許されるべきではないとの理由が挙げられています(最判S49.9.20)。さらに付け加えるならば、相続放棄は、相続がはじまったことを知ったときから3か月以内にしなければならないので、その短い期間内で借金したり、他人の連帯保証人になったりするのは仲々難しいという、事実上の理由づけがされています。

 本事案では夫の死亡から14年も経っていますので、相続放棄は当然ながらできません。さらに連帯保証人としての責任を追及された翌年に、それまで放置しておいた不動産の分割協議をしたわけですから、妻も2人の子も債権者に損害が及ぶことを承知の上だったと言われても仕方がありません。

 詐害行為取消権が問題となるのは、遺産分割協議に限りません。前述のように離婚の財産分与や慰謝料、安い価格での不動産売買などに乗じて行われることが多く、その際には身分行為と言えるのか、どの程度の金額なら妥当かを公正に判断する必要があります。したがって詐害行為取消権を行使するためには、必ず裁判所への申し立てをしなければならないことになっています。

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