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【事 案】 祖母の相続の熟慮期間中に父が死亡したとき、父の相続を放棄した後で祖母の相続を承認できるか?

【結 論】 子は、父が有していた祖母の相続に関する選択権を失うので、祖母の財産は承認も放棄もできない。(最判S63.6.21)

 例えば祖母が亡くなり、その後で多額の借金をしていた父が死亡した。父は祖母の相続人で、父が亡くなったのは祖母の死後3か月以内の熟慮期間中だったとき、相続の承認や放棄の順番をどうするか。通常、父の借金を相続したくないでしょうから、子は父の相続を放棄するでしょう。しかしここで注意が必要です。
 慌てて父の遺産(ここでは借金)を先に相続放棄してしまうと、祖母の相続に関して、父は初めから相続人とならなかったものとみなされますので、祖母の遺産について承認も放棄もできなくなってしまいます。逆に、祖母の遺産について相続を承認した後であれば、父の相続を放棄できると解されています。
 例えば祖母の遺産が3,000万円あり、父の借金が▲1,000万円あったとします。まずは祖母の遺産を承認し、その後で父の負の遺産を放棄すれば3,000万円の遺産を相続できます。もちろん父の負の遺産を相続してもかまいませんが、その場合は手元に残る遺産は2,000万円となります。

 なぜこのような違いが生じるのか、裁判所は次のような趣旨を判示しました。子が父親の相続につき放棄をしていないときは、祖母の相続につき放棄することができる。この場合祖母の相続につき放棄をしても、それによっては父の相続につき承認又は放棄をするのになんら障害にならない。また、その後に子が父の相続につき放棄をしても、子が先に再転相続人たる地位に基づいて祖母の相続につきした放棄の効力が、さかのぼって無効になることはない。
 すなわち、単にプラスとマイナスの相続財産を足し引きするだけでなく、相続する順番に注意すべきである。親から子へ、子から孫へという相続の流れを意識する必要がありますとのことかと思われます。
 相続の順番を変えるだけで、遺産がもらえたり借金が残ったりすることになり、債権者側にとって不利なはなしですが、それは抵当権や保証人を立てておくべき別の問題と考えます。

 この事案で裁判所は、再転相続に関して相続の承認又は放棄をすべき期間についても述べています。民法では、相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算するとしています。
 これを分かりやすくいえば、祖母が1月1日に死亡し、父が3月1日に死亡したときの熟慮期間は、祖母についても6月1日まで延長されることになります。
 この延長について裁判所は、祖母の相続についての熟慮期間を、父の相続についての熟慮期間と同一にまで延長したのは、祖母の相続につき必要な熟慮期間を付与する趣旨にとどまるのではなく、子の再転相続人たる地位そのものに基づき、祖母の相続と父の相続のそれぞれにつき承認又は放棄の選択に関して、各別に熟慮し、かつ承認又は放棄をする機会を保障する趣旨をも有するとしています。

 本事案は、祖母の死から3か月以内に、相続人である父が相続の意思表示をせずに亡くなった(父は相続人兼被相続人という身分になります)という、希なケースと思われるかもしれません。しかしこれまで当職が扱った事案で、夫婦間ですが同様のケースがありましたので、それほど希なことだとは言えません。相続関係説明図や遺産分割協議書を作る際に、少しの手違いで相続が不利にならないようご注意ください。

当事務所がお手伝いします 相続人の確定、相続財産の算定、相続関係説明図・遺産分割協議書作成