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【事 案】 相続人のひとりは、亡くなった父親名義の預金口座の取引経過明細を請求できるか?

【結 論】 権利濫用に当たるような事情がなければ、単独で銀行に開示請求できる。(最判H17.5.20)

 相続がはじまると、まず最初に遺言書があるかどうかを確認し、次に戸籍謄本や住民票を取り寄せ相続人の確定をしなければなりません。さらに相続財産として何が、どこに、どのぐらいあるか、もれなく調査する必要があります。
 銀行預金があれば、通常は預金種別ごとに死亡当日の残高証明を取り寄せることで大体把握できます。
 しかし被相続人が死亡する前に、病院の支払いや葬儀費用に充てる目的で相続人のひとりが預金を引き出していたり、あるいは死ぬ前に本人が借金を返しておこうと、どこかに送金したりするケースはめずらしくありません。

 預金は原則として相続人の共有財産になるので、遺産分割協議が終わるまで引き出すことができませんから、たいていの相続人は納得します。しかし取引明細まで見せてもらえないとなると、遺産額が本当に正しいのか疑う相続人も出てくることでしょう。
 相続人間で互いに疑心暗鬼になって、新たな紛争の火種になることだって考えられます。

 本事案でも相続人間で遺産額が争いになり、数人いる共同相続人のひとりが、単独で銀行に取引明細を請求したが銀行から断られたことが問題になりました。
 銀行側は、預金口座の取引経過を開示することは、預金者のプライバシーを侵害し、金融機関の守秘義務に違反する。他の共同相続人全員の同意がないと開示できないと主張しました。

 これに対して裁判所は、共同相続人の一人は、預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが、これとは別に、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる。
 他の共同相続人全員の同意がないことは、上記権利行使を妨げる理由となるものではないとの理由で、金融機関は預金口座の取引経過を開示すべき義務を負うとしました。

 ただし開示請求の態様、開示を求める対象ないし範囲によっては、開示請求が権利の濫用に当たり許されない場合があるともしました。これは例えば、遺産の額とは無関係と思われるほど長期間の開示を請求したり、すでに生前贈与で別人の名義になっているものに開示請求をかけるのは許されませんよ、ということと思われます。
 すなわち、相続において遺産が適正かどうか把握することを目的とし、その範囲が妥当であれば、相続人のひとりが銀行に取引経過を教えろと請求するのは、前述のような新たな紛争回避のためにも必要なことと思われます。

 銀行に残高証明を請求しても、かなり時間がかかることもあります。銀行残高が分からないと分割協議ができないのはもちろん、相続手続きの一切がそこでストップしてしまいます。最近受託したケースで、残高証明の発行まで2か月かかると回答してきた銀行がありました。しかし、いくら何でもこれは時間がかかりすぎ。大切なお金を銀行に預ける際には、テレビCMや利息、イメージにとらわれないで、実務的な対応ができる銀行かどうか吟味する必要があります。

当事務所がお手伝いします 相続人の確定、残高証明の請求、相続財産の算定、遺産分割協議書作成