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【事 案】 兄弟の葬儀費用を負担したとき、費用を亡くなった者の子(甥姪)に請求できるか?

【結 論】 追悼儀式は儀式主宰者が、遺骸遺骨の埋葬は祭祀主宰者が費用負担すべきで当然には請求できない。(名高判H24.3.29)

 身内だけによる葬儀など、最近はあまりお金をかけない簡素な葬式が多くなってきているようです。また高齢者の離婚などもあってか、老人の孤独死も増えてきています。
 本件は、まさにそのような事案です。

 亡くなった男は妻と別れ、2人の子とも20年以上疎遠にしていたが、兄弟とはそこそこ交流があった。
 死んだという連絡を受けたのは兄弟であり、妻は先に死亡、子に連絡をしたがひとりは葬儀にも列席せず、列席した子も喪主になるのを断ったため、しかたなく兄弟らが喪主となって通夜、葬儀、火葬及び初七日の法要を取り仕切った。そして葬儀に支出した費用約180万円を2人の子に不当利得として返還請求し、併せて当該男性に貸していた500万円についても弁済を求めたものです。
 なお亡くなった男は、兄弟から借金するほどですからこれといった遺産は無く、ただし2人の子らは遺族年金を受給していたとの事情がありました。

 この請求に対して子らは、葬儀は亡父の預貯金残高の範囲及び市町村からの補助金により、家族葬又は火葬のみをすると決めていたのに、兄弟らは子の葬儀をする権利を侵害した上、世間相場より高額な請求をしているので不当である。遺体を処理するのに必要な費用はせいぜい8~11万円程度である。また亡父が借金していたことは知らないので、借金の返済義務はないと主張しました。
 これらに対して裁判所は、貸付金500万円についてはその事実は認められないとして兄弟の主張を認めなかった。
 さらに葬儀費用については、死者の追悼儀式に要する費用と埋葬等の行為に要する費用の2つに分けて次のように判示しました。
 すなわち、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結しておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に関する費用については同儀式を主宰した者が負担し、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担する。

 追悼儀式についてはこれを行うか否か、行うにしても規模をどの程度にし、どの程度費用を掛けるかについては主宰者がその責任において決定し実施するものであるから、主宰する者が費用を負担するのが相当である。
 他方、遺骸又は遺骨の所有権は慣習上死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するので、管理、処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきであるとしました。
 そして本事案では追悼儀式は兄弟が手配し、規模を決め、喪主も務めたので兄弟が費用を負担すべきである。また、遺骸、遺骨の埋葬等の行為に要する費用については、20年以上も交渉が途絶えていた子らを、祭祀を主宰すべき者とすることが慣習上明白とは言えないとしました。

 結局、遺骨の引き取り手も定まらないまま、葬儀費用も兄弟が負担するということに決着した次第です。
 なお兄弟らがした、葬儀費用は相続人は葬儀費用を負担すべきであるとの主張に対しては、葬儀費用は相続開始後に生じた債務であるから、相続人だからといってただちに葬儀費用を負担すべきものとは解されないとも判示しています。
 なるほど、葬儀費用は相続税からは控除されるため被相続人にかかる債務と混同しがちですが、死後に発生する費用ですから両者は性格が違うという点に注意する必要があります。
 最終的に無くなった男の兄弟が、追悼儀式に要する費用も埋葬等の行為に要する費用も負担し、貸し付けた金銭も戻ってこないという結果になったのですが、子らが親の葬儀の面倒もみないというのには違和感を感じます。
 訴訟というのは、あるいは争続になるとこうなってしまうといえばそれまでですが、親族が互譲して折半する余地はなかったのかとやりきれない思いがする事案です。

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