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【事 案】 兄弟間で遺留分放棄の約束がされていたとき、兄弟が約束に反して遺留分を主張できるか?

【結 論】 事前放棄した兄弟が遺留分を主張することは、信義則上の権利濫用にあたり許されない。(東高判H4.2.24)

 「ほかに財産は無いが、面倒みてくれている長女に土地建物を相続させたい。」相続か遺言の問題かどちらで扱うか悩ましいですが、市民法律相談に出かけると質問される問題です。

 「土地建物は長女に相続させる」と遺言を書き、長女以外の子に遺留分放棄をしてもらうというのが正解です。
 ただし相続放棄は相続が始まる前にはできませんから、放棄する子に遺留分を放棄してほしいと頼んで家庭裁判所に申立て、許可してもらわなければなりません。
 裁判所は、関係者から強要された放棄ではないか、放棄者は遺留分に見合った財産をもらっているか、放棄者の生活は安定しているかなどを調査して許可しますので少しやっかいです。

 本事案では家庭裁判所の許可がなく、兄弟間での約束だけで放棄が認められるのかが争われました。
 被相続人となる母親は土地を全て長女に相続させたいので、各自遺留分を放棄してほしいと子ら頼んだ。長女以外の子らはそれを了承し「本件土地の所有権を長女に単独相続させることを認め、他の子共らは本件土地につき権利を主張しない」旨の書面に署名、捺印した。

 長女は79歳から88歳で母親が亡くなるまで面倒を見たが、亡くなり相続がはじまってみたら他の子らが遺留分を主張して家庭裁判所に減殺請求したものです。
 裁判所は、他の子らがした減殺請求により長女は多大の損害を被ることになる。家庭裁判所の許可の審判を経ていないが、申立てがなされていれば当然に許可されるべき事案であった。当該請求は信義誠実の原則に反し権利の濫用にあたるものだとして、遺留分請求を認めませんでした。

 もし仮に、減殺請求が認められたらどうなるか。
 母親の遺産は土地しかなかったのですから、長女は自腹をきって他の子らに代償金を払うか、さもなくば土地を売らざるをえなくなるでしょう。
 約束を守って親の扶養、看護を直接おこない親身の孝養を尽くした長女と、それを免れて身体的経済的な利益や自由を享受することができた他の子らを一律に扱うのが公平とはいえず、裁判所の判断は妥当と思われます。

 他にも信義則に反するとして遺留分減殺請求が認められなかった事案があります(東地判H11.8.27)。
 別の訴訟で遺留分を放棄するという条件でした和解をしたのですが、それが家庭裁判所の許可にとって代わることができるかが問題となったものです。
 この事案で裁判所は、遺留分の事前放棄に家庭裁判所の許可が必要だとした趣旨は、長子でない者が不当に相続権を事前に剥奪されないようしたものである。放棄は家庭裁判所の許可がなければ効力のない要式行為で、他の裁判の和解における遺留分放棄の合意をもって、家庭裁判所の許可に代替し得るとは言えない。としつつも、放棄すると約束した者が減殺請求をするのは信義則に反するとしました。
 すなわち裁判所は、家庭裁判所の許可がない遺留分放棄は認められないと明確に判示しました。
 しかし放棄が認められないことと、それが主張できるかは別です。裁判上の和解条件として放棄すると約束しているにもかかわらず、家庭裁判所の許可がないからとの理由で放棄せず、遺留分を主張するのはたしかに矛盾しています。それが信義則に反するとされたわけです。

 法律で保護された法定相続や遺留分の権利はとても強いものです。しがたってその原則を崩すには、遺言や当事者の約束では足りず、裁判上の和解条件でも足りない。
 全財産を特定の誰かに相続させるのは簡単なことではなく、家庭裁判所に申立てをして、許可を得てはじめて実現できる問題だと認識しておく必要があります。

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