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【事 案】 子のひとりが遺産分割協議でした約束を守らないとき、遺産分割協議を解除できるか?

【結 論】 遺産分割協議の解除は認められない。(最判H1.2.9)

 本事案は子のひとりが家を継ぎ、母と妹の世話をし、親戚づきあいをし、先祖の祭祀をすると約束したので、遺産分割協議でその子に他の兄弟よりも多く遺産を与えることにした。
 しかし相続からまもなく、その子は親の身の回りの世話を打ち切ったばかりか、親に暴力をふるったり他の兄弟が管理すると取り決めていた不動産を勝手に売却し、兄弟らと争うようになった。そこで母親が分割協議の解除を申立てて争ったものです。

 母親側は、まず分割協議をした当事者に意思の欠缺(いしのけんけつ:意思が無い、不存在をいいます)がある場合や、意思に瑕疵(いしのかし:意思はあるが傷ついていたり不完全なことをいいます)がある場合には協議の無効や取消しが認められるのだから、解除も認められるべきだと主張しました。
 たしかに民法では、分割協議に無効や取消しが認められています。ならば解除も認められてもよさそうな気がします。

 (以下の小文字は法学的な問題ですので、煩雑だと思われる方は読み飛ばしてください。)
  少し難解ですが、民法では意思が不存在のときには契約は無効だと主張することができます。例えば犬を買うつもりでペットショップに行ったが、あまりに犬らしく見えたので間違って猫を買ってしまったときなど。
  また意思が不完全な場合には、契約を取り消すことができます。例えば犬を買うつもりでペットショップに行ったが、店員に騙されたり脅されたりして猫を買ってしまったときなど。
  一方、契約の解除は債務不履行など相手が違法なときに、契約成立前の状態に戻すことです。これら無効、取消し、解除の三つは、効果は似ていますがどんな場面で主張できるかが違うのです。
 本事案で各相続人は、分割協議時点でひとりの子により多くの遺産を与える意思があったのですから、意思が無かったとはいえず無効は主張できません。また騙されたり脅されたりして決めた訳ではありませんから、意思に疵がなく取消しも主張できません。

 ならば解除すると言えないか。すなわち、遺産を多く与える代わりに親の世話などをするという約束をしたのですから、約束が守られなければ債務不履行にして解除ができるはずです。契約解除が認められれば、例えば相続でもらった土地を既に誰かに売ってしまっていたとき、土地を買ったひとは原則として土地を返さねばならなくなり法的安定性は害されます。しかし無効だって取消しだって法的安定性は害されるのですから、解除だけが禁止されるのはおかしいというのが母親側の主張です。

 これに対して裁判所は、遺産分割協議では債務を負担した相続人(子のひとり)と、その債権を取得した相続人(母親など)の債権債務関係が残るだけである。そう解釈しないと遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されるとの理由で、遺産分割は協議の成立とともに終了するとして解除を認めませんでした。
 すなわち相続が終わった以上、分割協議で約束した内容に債務不履行があったとしても、もはや協議のときに遡って遺産分割の内容を変えることはできず、約束を守らない相続人があったときには、相続人間で金銭など他の方法で個別に解決しなさいということです。

 もっとも、遺産分割協議の解除がまったく認められないかといえばそうでもなく、この判決の翌年には、相続人全員が遺産分割協議を合意解除して改めて遺産分割協議をすることは、当然には妨げられるものではないと判示されました(最判H2.9.27)。
 前の事案と逆の判断とも解釈されるので、どう解釈すべきか未だに議論されています。

 ちなみに、相続に出てくる制度を法的効力が強い順に並べてみると、遺産分割協議>遺留分>遺言>法定相続分といった感じになります。遺産分割協議がとても大事な手続であることは、相続人全員の同意がなければ無効になることからも明かです。

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