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【事 案】 母が亡くなった後、父が内縁の妻と同居中に死んだとき、すでに独立した子は父親の死亡退職金を受け取れるか?

【結 論】 死亡退職金は内縁の妻に支給され、子が受け取ることはできない。(最判S55.11.27、60.1.31)

 民法は、内縁の妻に相続権を認めていません。したがって子がいる以上、父親の残した財産は子が相続するはずで、内縁の妻に死亡退職金を持っていかれる筋合いは無いと考えるのが一般的かと思います。
 しかし裁判所は子の主張を認めず、内縁の妻に支給を受ける権利があるとしました。
 その理由は、在職中に死亡したときに支払われる死亡退職金は相続財産に属さず、残された者の固有の権利だということです。さらに別の判例では、遺贈の対象とするに由ないものというべきものである(大高判S57.11.28)とまで言っています。

 死亡退職金を、もっぱら職員の収入に依存していた遺族の生活保障(フロー)が目的だとみれば、相続財産には入らないことになります。逆に、死亡退職金を過去の賃金の後払い(ストック)だとみれば相続財産に入ることになります。裁判所は、死亡退職金は在職中に死亡したときに支給されるものだから、死亡退職金の性格は前者だとして相続人の主張を排除しました。
 一般に、死亡した者の財産は相続人に承継されはずなのに、内縁の妻がもらえるという根拠はどこにあるのでしょうか。死亡退職金について定めている規定としては、私立学校教職員共済組合法、国家公務員共済組合法、恩給法、労働者災害補償保険法、中小企業退職金共済法、労働基準法施行規則などが代表的なものとして挙げられます。また地方公共団体の死亡退職金に関する規定もこれらに準じており、多くの組織で、死亡退職金や弔慰金は相続財産ではないとされているのです。

 これらの規定で、死亡退職金が支給される遺族の範囲と優先順位がどう扱われているかをみると、職員の死亡の当時主としてその収入により生計を維持していたものであることです。第一順位は事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む配偶者であり、配偶者があるときは子は支給を受けることはできません。直系血族間でも祖父母が孫より先順位となり、嫡出子と非嫡出子が平等に扱われ、父母や養父母については養方が実方に優先するとされています。

 内縁の妻の存在はやや特殊なケースですが、一般的事例として次のような事例もあります。
 地方自治体の職員をしていた男性は父親が所有する土地の一角に住んでいた。子らがすべて独立して家を離れたあとで妻と離婚したが、財産分与を争う裁判の途中、心労のせいか急逝してしまった。まだ定年退職前のことでした。
 このような事情のもとで、死亡退職金は誰がもらうことになるかといえば、男性と同居していたとみなされる父親です。男性が退職したあとで支給される退職金なら子らが相続できたはずなのに、退職前のことだったので、勤務先である地方自治体は父親に給付せざるを得なかった。給付規定で決まっている以上、亡くなった男性の意志とは関係なく支給されてしまいました。

 死亡退職金は千万単位になることも多く、相続人にとっては重大関心事です。公務員や教職員に限らず、一部の企業でも、前述のような規定がある場合が多いと思われますので注意が必要です。
 それぞれの家庭によって事情は異なりますが、相続の例外とも思われる規定が適用される死亡退職金や弔慰金については、あらかじめ遺言で受給権者を指定したり、親に遺言作成や生前贈与の申し入れをするなどして相続時にもめないようにしておくべきです。
 ただし、前述のように会社の規定などがある場合には遺贈の対象にもなりませんから、相続人には全く権利がなく遺言も無効になるので注意が必要です。

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