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【事 案】 父は甥に土地を生前贈与し、長男に家を死因贈与し、先妻にアパートを遺贈したので妻らの遺留分が侵された、減殺請求すべき順番は?

【結 論】 遺贈、死因贈与、生前贈与の順に減殺請求すべきである。(東高判決H12.3.8)

 減殺請求とは相続人に与えられた権利で、相続人がもらえる最低の取り分(遺留分)が侵害されたとき、侵害した相手に対して返せと主張できる制度です。
 なぜこのような制度があるかというと、かつては家督制度があって、家を継ぐ長子が遺産全部を自分のものにできたのですが、妻や子ら全てが遺産をもらえるように民法が変わったからです。
 しかし生前にもらったもの(生前贈与)、何らかの条件つきだが死ぬことを条件としてもらったもの(死因贈与)、死ぬことだけでもらったもの(遺贈)ではそれぞれの事情が違います。
 事情が違うのですから、全部いっしょくたにして一律に返せというのはおかしな話になってしまう。
 そこで民法は、まず被相続人が死んだときから過去に遡って、もらった時期が新しい順番に減殺請求ができるとしました。
 これが基本的なルールです。

 しかし時期以外にも、死んだひとの生前の意思とか、死んだあとまで残る意志も尊重する必要があります。これが本事案で問題となりました。
 まずは先妻への遺贈と、甥への生前贈与を比べてみましょう。

 上記事案では、父が死んだ時点での先妻へのアパート贈与(遺贈)、次に甥の土地(生前贈与)の順で減殺請求されることになります。これは、贈与された時期が新しいほど減殺請求されるリスクがあるという、時期の問題ですから原則どおり処理できます。

 では先妻のアパート(遺贈)と長男の家(死因贈与)のどちらが先に減殺請求されるか、これは法律に書いてありませんので、解釈の問題となります。

 では死んだらもらえるという点で同じ、先妻へのアパート遺贈と長男への家の死因贈与はどうなるでしょうか。いずれも時期は死亡時ですから同時に効力が生じます。
 そうするとどちらに先に返せといえるか、民法には性質に反しない限り、遺贈に関する規定を死因贈与に準用すると書かれていますから、遺贈を受けた者と死因贈与を受けた者が按分すればよいのではとも考えられます。
 しかし裁判所は、死因贈与より遺贈を先に減殺請求すべきだと判断しました。
 すなわち、遺贈は亡くなった父が一方的意志で与えるものなのに対して、死因贈与は契約のひとつであるから遺贈よりも受けた者の期待は大きい。死因贈与の方をより保護すべきであるとの理由です。
 たしかに、遺贈は相続編にあるのに対して死因贈与は契約の章に書かれていますので性格が基本的に違います。
 したがって本事案では、まず先妻のアパートが、次いで長男の家が減殺請求されることになります。

 次に、長男への死因贈与と甥への生前贈与の関係も一応問題となりますが、条文に従えば死因贈与が先に減殺請求されることになります。贈与者である父の意思からしても、生きている間にあげた生前の贈与の方が、死んだらあげるという死因贈与よりも大きな決断が必要だったはずですから、死因贈与が先に減殺請求されるべきです。
 ちなみに甥が相続人でなければ、父が亡くなる1年より前にされた生前贈与ならば減殺請求されません。(1年より前であっても、甥と父双方が妻ら相続人に損害を加えることを知って贈与したら減殺請求されることがあります。このあたりの事情は少し複雑なので、専門家に相談する必要がありかもしれません。)

 以上のことから、本事例では、先妻が遺贈でもらったアパート、長男が死因贈与でもらった家、甥が生前贈与でもらった土地の順番で、侵害された遺留分が満足されるまで減殺されることになります。

 ところで亡くなった時を基準とする決まりには、1年前と3年前という二つの数字が出てきますので混乱しがちです。
 前者の1年前という期限は、本文で説明したように民法が定める相続人の最低の取り分(遺留分)を確保するための決まりです。
 片や後者の3年前という期限は、遺留分とは関係ありません。相続税を計算する上で相続税法が定めているルールです。すなわち本事案で、相続人である長男が死因贈与ではなく普通の贈与で家をもらったのが、父が亡くなる3年以内だとすれば、もらった家を含む全ての財産を相続財産に入れて計算しなさいという決まりです。ケースにもよりますが、贈与税よりも相続税の方が安いですから有利ともいえます。
 相続人でもない甥が、父が亡くなる3年以内に土地をもらっていたとしても、相続税としては扱われずそれは贈与税で処理されているはずです。

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