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【事 案】 親から全財産にあたる土地の生前贈与を受けた三男は、10年間占有した後親が死亡すれば土地を時効取得できるか?

【結 論】 三男は土地を時効取得できず、他の兄弟は遺留分減殺請求ができる。(最判H11.6.24)

 親の兄弟以外の相続人は、それぞれ遺留分として法定相続分の1/2までの権利を主張でき、それが侵害されたときには減殺請求をして自分の財産とすることができます(ただし、亡くなった被相続人の父母や祖父母など直系尊属が主張できる遺留分は例外的に1/3で、配偶者あるいは子や孫などの直系卑属よりも小さくなっています。相続制度は遺産を水のように下流に流すことを原則としているからです)。

 一方土地の取得時効は、占有をはじめたときから10年(または20年)で完成し、時効が完成すればたとえ土地に抵当権や地上権が設定されていても、何もない状態で自分のものにできます(原始取得)。
 そうすると、三男は親から贈与を受けて占有をはじめたのですから、一定期間の占有が証明できれば真っさらな土地を自分のものにすることができそうにも思えます。
 しかし裁判所は、贈与が何年前にされたものかどうかを問わず、他の兄弟は遺留分の減殺請求ができるとしました。
 なぜなら三男に土地の時効取得を認めると、他の兄弟から時効取得を阻止する手段を奪うことになってしまうからです。例えば贈与がされてから親が死ぬまでの間は、土地の所有権は三男にあるのですから自分のものだと主張できるでしょう。さらに現実に占有しているときには、占有権も主張できます。

 これに対して、三男以外の兄弟は推定相続人にすぎず、相続人になれるかどうかさえ明らかではありません。生前の親に文句を言うことはできても、三男に対して土地を明け渡せと請求できず、時効を中断する機会を絶たれた状態でいなければならないということです。
 それでは相続人間の公平を欠きますから、いくら占有期間が消滅時効に足るものであっても、三男の主張は許されないと判示しました。

 このように、法は主張する機会があったかどうかを極めて重視します。逆にいえば機会があったのに主張しなければ法の救済は期待できません。これは民法のみならず、刑法でも会社法でもみられる法の理論です。
 なお余談ですが、遺留分は家庭裁判所の許可を受ければ放棄できますが、遺言とセットでなければほとんど意味をなさないことにご注意ください。たとえ遺留分を放棄しても、相続人としての地位は失われません。また遺留分が問題となるのは、ほとんどが遺言書がらみの場合です。なぜなら、遺言書が無いときは、相続人全員が納得できる内容で遺産分割協議がされるはずですから、遺留分は問題になりずらいといえます。
 誰かに相続させない手段として、遺留分の放棄や廃除があり、前者は後者より認められやすいとされていますが、遺留分の放棄の場合には相続人としての権利は残る点に注意が必要です。

当事務所がお手伝いします 遺留分減殺請求の申し入れ、遺産分割協議