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【事 案】 父親が借りた1,000万円の借金を単純承認したときは、誰がいくら負担しなければならないか?

【結 論】 それぞれの相続人が、法定相続分に応じて負担できる。(最判S29.4.8、S34.6.19)

 前述(相続001)の事案で単純承認せざるを得なくなったとき、相続人は父親の借金も当然に引き継がなければなりません。単純承認したときは、無限に被相続人の権利義務を承継しなければならないからです。
 では、借金を各相続人にどのように配分し、負担させるべきか。

 父親にお金を貸した側からすれば、もともと父親ひとりに払ってもらえばよかったのですが、相続という偶然のでき事で借金が細分化されると、相続人全員に請求しなければならず手間がかかります。また、仮に相続人の誰かが払えなければ、そのリスクも負担しなければならず大変です。
 逆に細分化されないとすれば、債権者は相続した者全員に最大1,000万円請求できることになり、相続人の数だけ保証人がついたのと同じ結果になりますので、相続という偶然のでき事で望外の利益を得ることになってしまいます。
 一方、子が借金まみれで、相続した親の遺産を子の債権者にもっていかれる可能性もあります。そのようなときは、父親の債権者は財産分離という方法を使って、親の財産が子の財産に混入することを防ぐこともできます(第一種財産分離)。しかし財産分離は遺産分割の前に家庭裁判所に請求しなければならず、手間がかかります。

 このように、相続という偶然のでき事によって、父の債権者も、相続人も、さらに子の債権者にとっても不安定となる事態が生じる可能性がありますので、裁判所は、各相続人が相続分に応じて借金を分割して承継するというルールを示しました。
 そうすると父にお金を貸した側にとっては、前述のとおり請求する手間が増えるし、一部の相続人が払えないリスクも被らなければならないことになって不利だともいえます。ただ、お金を貸すときには連帯保証人や抵当権などの担保をとるのが一般的なので、一概に債権者だけが可愛そうだとは言えないと考えます。

 原則として法定相続分で配分するとした理由は、例えば相続人側が遺産分割協議で自由勝手に決めてしまった額を基準にすると、債権者の預かり知らぬ事情で請求額が変わってしまい、かえって債権者に手間をかけることになるからです。ただし遺産分割協議は本来自由になされるべきことですので、債権者が分割協議どおりでよいと承諾すれば分割協議に即して各相続人が払えばよいことになります。

 さらに相続人側の問題としてですが、父親が子に与えた生前贈与(特別受益)も借金返済の対象にすべきかという点が挙げられます。
 生前贈与された時期、金額などにもよりますが、亡き父親の意思を尊重するのであれば生前贈与まで遡るのは避けるべきでしょう。生前贈与は、父親が生きているうちになされた分だけ死後の相続よりも父親の意思が強く反映されているからです(相続007事案を御参照ください)。

 借金の相続は、父親が連帯債務を負っていたときにも問題になります。
 連帯債務というのは、複数人が借金の全額を払わなければならない契約のことです。例えば、父親とその友人と叔父の三人が連帯債務者になって1,000万円の連帯債務を負っているときは、貸し手側は三人の誰に対しても1,000万円請求できます。
 父親が連帯債務を負って死んだとき、例えば相続人である母親と子どもに対して、それぞれ1,000万円請求できるかという問題が生じます。裁判所は、この連帯債務を相続したときでも、前の事案と同様に相続人は原則として法定相続分に応じた負担をすればよいと判示しました。

 相続問題を扱うには、遺産になるかならないか。さらに債権債務等が遺産にあたるとしても、分割協議で配分すべきか、法定相続が望ましいかをきちんと区別して処理する必要があります。
 また分割協議内容は、第三者の権利を害するようなときは変更できませんが、税負担が公平でなかったり遺産の欠落といった内部問題にとどまるときなど修正が必要になることがあります。そのようなときには改めて合意書をつくり、後日の紛争を回避すべきです。

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