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【事 案】 親が認知症で回復の見込みがないとき、遺言の無効確認を請求できるか?

【結 論】 認知症で回復の見込みがなくても、親が生存中は遺言無効確認の訴えはできない。(最判H11.6.11)

 親が、死んだら第三者に遺産を贈与するとの遺言書を書いた。すでにアルツハイマー型老人痴呆症になっているので、病状が回復する見込みもない。
 もはや遺言を書き換えてもらえず、このままだと第三者に遺産の大部分を持って行かれてしまう。
 そこで本事案は、親は意思能力が無い状態で書かされたから、いまの遺言書は無効だと確認する判決がほしいと訴えたものです。

 高等裁判所は、遺言者が生きている間は遺言の無効確認を求める訴えは原則として不適法だが、遺言者が変更する可能性がないことが明白な場合には、例外的に無効確認ができるとして子の訴えを認めました。
 これに対して最高裁は、次の理由で高裁判決を破棄して子の訴えを退けました。
 本事案は、第三者が遺贈を受ける地位にないことの確認を求めることによって、子の相続する財産が減少する可能性をあらかじめ除去しようとするものである。しかし受遺者とされた第三者は、単に将来遺言が効力を生じたときは、遺贈の目的物である権利を取得することができる事実上の期待を有するにすぎない。
 受遺者とされる者の地位は、確認の訴えの対象となる権利又は法律関係には該当しないというべきである。
 遺言者が心神喪失の常況にあって、回復する見込みがなく、遺言者による当該遺言の取消し又は変更の可能性が事実上ない状態にあるとしても、受遺者とされた者の地位の右のような性質が変わるものではない。
 したがって、遺言者である親の生存中に遺言の無効確認を求める訴えは、不適法なものというべきである。

 すなわち、子は親の遺言書が無効だと確信して、このままだと第三者との間で将来遺産について紛争が起きるのは明らかだから、遺言無効という判決を求めた。(ちなみに遺言書は公正証書遺言で、第三者は親の後見人というかなり有利な立場にあった。)
 これに対して最高裁は、親の生存中は第三者には何らの権利が発生していない。そのような確認の利益を欠いている場合には、訴えに利益は認められないから不適法却下、つまり遺言の有効無効を論じるまでもないと門前払いにしました。

 確認の訴えは、紛争の解決ないし紛争を予防するために、争いのもとになっている特定の権利や法律関係の存否を裁判で明らかにするものです。
 争いのもとになっている権利や法律関係が問題になるわけですから、金や物をよこせと主張する給付の訴えや、特定の権利や法律関係を生じさせる形成の訴えとは、具体的な権利に基づいているかどうかがかなり違います。すなわち確認の訴えでは、対象が無限定になるぶんだけ確認の利益(訴えの利益)というものの有無が、厳しく吟味されなければなりません。
 確認の利益があるかどうかの基準について、民事訴訟法を学ぶときに暗記ゴロ合わせがあるぐらいで、方法・対象の適正、即時確定の必要性が要素になります。最終的には、紛争の予防・防止に有効か否か個別具体的に判断されますので、認められたかどうかの判例を探せば枚挙にいとまがありませんが、本事案では高裁と最高裁が全く逆の結論を出しました。

 遺言の撤回が期待できない情況下で、近い将来遺言の有効無効が紛争の種になることが明らかだとみれば、高等裁判所寄りの結論になります。そうではなく、親が生きているうちに第三者が死んでしまえば贈与は無効になるとの民法条文を強調すれば、最高裁寄りの結論になるでしょう。
 いずれが妥当かについて逆の結論を出した判例も多くあり、諸説があって見解が分かれていますが、本事案最高裁の結論からすれば、遺言者が生きている間は、その者が書いた遺言が無効だと主張しても不適法却下、裁判所から門前払いされる可能性が大きいといえます。

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