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【事 案】 婚約解消の原因が男性側にあるときでも、すでに女性に渡した結納金を返せといえるか?

【結 論】 解消の原因をつくった側が結納金返還請求をすることは、信義則上認められない。(東高判S57.4.27)

 結納金は、一般的には婚約成立に伴って男性から女性に渡されるもので、女性からのお返しされることはありますが基本的には返す必要のないお金です。
 返す必要のない財産移転だとすると、法律的には贈与にあたりそうな感じもします。またそれが将来の結婚を前提とする解除条件つきの贈与、あるいは婚約という約束を証するための手付けとみることもできるでしょう。

 これらの法律的構成のうち、婚約破棄のとき結納金を返せと言うにはどの理屈が適当かといえば、将来結婚することを前提に贈与するという解除条件付き贈与が妥当と思われます。
 なぜなら、贈与だと結納金を渡した時点で履行が終わっているのでそれを撤回して返せとは言えません。一方手付けだとすれば婚約という契約を解除するには手付金を放棄する必要がありますし、手付けという制度を身分関係に持ち込んで物や不動産の売り買いと同様に扱うのは憚られます。

 したがって結納金を返してもらうには、結婚という条件成就で結納金を贈与するとの主張が一応合理的ですが、それを婚約を破棄する方から言えるかどうかは別問題です。民法では条件の成就を妨げたときは条件が成就したものとみなされますから、この理屈でも責を負うべき男性から結納金を返せとは言えないでしょう。
 結納金の性格について裁判所は贈与として判断していますが、結局のところいずれの理由づけでも男性側が主張するのは難しそうです。

 しかしこの事案で、裁判所は男性側の主張を封じるためにわざわざ信義則を持ち出してきたのはなぜでしょうか。
 そこで信義則について考えてみることにしました。
 契約書をみると、だいたい最後に『甲乙は信義にもとづいて…』という文言が出てきますがこれが信義則です。これは単なる飾りではなくて、民法上は立派なお約束なのです。

 とくに根拠とすべき条文がなく、どうにも困ったときの信義則と言われるように条文ですっきり答えを出し得ない、裁判に持ち込まれるような複雑な事案ではわりと出番が多いのです。例えば、契約の交渉段階で相手に過剰な期待を抱かせたり、軽微な損害なのに莫大な費用を請求する、あるいは父の遺産を相続した子が差し迫った必要も無いのに父と同居していたお妾さんに立ち退きを請求するようなケースが挙げられます。
 もっとも、どんな場面でも信義則が使えるわけではありません。社会的にみてあまりにも酷い権利の濫用、対等であるべき当事者の公平を著しく損なうといった不当な場面で、使える適当な条文が無いときに限定的にしか使えず、信義則上許されないと認定するためには、よくよく慎重であるべきだとされています。
 婚約解消という行為は、手付けを諦めれば契約解除できる一般的な売買と異なり、少なくとも責めを負うべき側が解消を主張する場合には、相手側の信頼を損ねたペナルティを負うべきだとの意思がみられます。そしてその程度が酷ければ、結納金の額に限らず損害賠償や慰謝料まで請求できる可能性を残したものと思われます。
 ところでこの事案では、女性側は金銭以外の物品については返還したようです。結納金はさておきプレゼントなどの品物は本来返す必要もないのですが、そのまま手元に置いておくのも後味がわるいということでしょう。

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