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【事 案】 被保佐人が保佐人に無断で高価な指輪を売り、代金をパチンコに使ってしまったら買主は代金を返してもらえるか?

【結 論】 被保佐人が必要な支出にあてた出費は返してもらえるが、パチンコで使ったお金は返してもらえない。(類似最判S7.10.26)

 まず被保佐人ここではお婆さんとしますが、指輪を売ったことを取り消せるかが問題になります。保佐人の同意を得ないで重要な財産を売ってしまったときは取り消すことができます。
 例外として自分が被保佐人でないと積極的にウソをついたり、日用品の取引であれば取り消せませんが、ここではウソをついて相手を騙した事情はなく、高価な指輪は日用品とは言えないでしょうから取り消すことができます。
 そうすると、売買契約は取消しで始めに遡って無かったことになり、相手方はお婆さんに指輪を返し、お婆さんは相手に代金を返さなければならないのが原則です。お婆さんも相手方も互いに双務契約のルールに従って、不当利得返還義務を負うからです。

 しかし民法では、制限行為能力者は現に利益を受けている限度において返還の義務を負うとされているのです。この「現に利益を受けている限度」というのはどういう意味でしょうか。
 同じような決まりは不当利得にもあって、善意の不当利得者は「利益の存する限度において」返還しなければならないとされています。すなわちお婆さんが取消しをした時点で、手元にあった残金と生活費に使った分は返さなければなりません。しかし浪費した分については、利益が現存しないので返さなくてもよいということです。

 上記判例は未成年者による取消しの事案でしたが、裁判所は無能力者の負担する債務又は生活費は、自己の財産財産をもって弁済又は支弁することを要する。これに必要な資金を自己の財産より支出することなく、受領した金員を債務弁済や生活費に充てたときは、無能力者の財産はその範囲において減少する。減少しないで尚存在するものをもって、無能力者は現にその利益を受けたといい得るとしました。
 旧仮名づかいで難解な言い回しでそのまま読むには辛く要約しましたが、すなわち本事案では売却代金を生活費や債務の弁済に充てたのであれば、その分お婆さんの財産は減っていたはずである。現存利益とはその減った分であるということと理解します。
 この、現に利益を受けている範囲で弁済すればよいという規定は、そもそも制限能力者は浪費しがちなものであり、手許にお金があれば使ってしまうのが通常であるからそれを保護しようというのが趣旨です。最高裁はパチンコで浪費した金は返さなくてもよいとは言っていませんが、逆に、現に受けた利益を生活費など有益な目的で使ったものと限定することで、浪費した金銭は現に受けた利益ではないとしたのです。

 生活費として使ったら返さなねばならず、浪費した分は返さなくてもよいというのは、はなはだ虫の良いはなしで一般社会通念とは逆の結論でしょう。違和感を感じますが、かなり昔から制限能力者の保護が重視されてきた証左とも言えます。
 任意後見人を受託するにしても、こういう話は基礎知識として身につけておかねばならず、一方高齢者と取引をする際には認知能力の程度に注意する必要があると言えます。

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