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【事 案】 後見開始の審判申立てを取り下げることができるか?

【結 論】 審判がされる前であっても、家庭裁判所の許可を得なければ、取り下げることができない。(参考:東高決H16.3.30、H15.6.6)

 裁判所が下した判断をむやみに蒸し返すことは一般国民の法意識から妥当ではなく、まして法律に関わる仕事をしている立場からは勧められません。しかし後見は多分に親族間の問題であり、国の介入は謙抑的であるべきと考えます。
 親族がした家庭裁判所への法定後見の審判申立てが取り下げられるか、かつて高裁の決定が大きく分かれました。

 取り下げができるとした事案は、H16.3.30東京高裁のもので、家裁の審判が下った後でも取り下げが許されるとしました。
 その理由として、金融機関等に勧められて制度を十分理解しないまま申立てをしたが、後見開始の効果が重大なことを知ったから、費用負担ができないから、親族間で意見が合致しないから、鑑定の結果要件を具備しないことが明らかになったから等の理由で取下げがされる場合も少なくないのであって、そのような場合にも一切取下げを認めないのも適切ではないとしています。

 これに対して取り下げを否定した事案は、H15.6.6同じく東京高裁のものです。
 否定した理由として、申立てを取り下げたのは、本人につき後見の必要自体がないと判断したからではなく、申立人がすでに事実上本人の財産管理権を取得したことや、第三者が後見人となることに伴う報酬の支払いを避けたかったことによるものであることが窺われる。(既に、鑑定人の精神鑑定書及び家庭裁判所の調査官の調査報告書も提出されていた段階において、)申立ての取り下げがされたとしても、手続終了の効果を認めるのは相当ではないとしています。

 この2つの決定は、まさに制限行為能力者本人の保護という立て前と、親族らの本人に対する監護のありようや財産管理権が対立した点にあります。
 結局のところ、平成23年に公布された家事事件手続法が、取り下げには家庭裁判所の許可が必要だと規定しましたので、ひとたび法定後見の申立てをしてしまうと、審判の前後の別異や手続の進捗度に関わらず、取り下げるのは難しくなったといえます。
 すなわち家庭裁判所への審判申し立てをすると、後見開始の審判、後見人選任の審判、審判書の送達、後見登記という流れで一気に進んでいくことになります。

 さてここで問題となるのが、申立人が考えていた候補者が選任されなかったときや、裁判所が選任した後見人と親族らが対立したときです。なぜならば、後見人選任の審判には即時抗告 (裁判所の決定に対して不服を申立てること) ができないからです。
 裁判所が、親族らが推薦した者を選ぶとは限らず、登録された弁護士や司法書士などが選ばれる割合が大きくなっているようです。【最高裁判所資料】

 実際に制度を利用した当事者からは、裁判所の敷居が高く、本人保護のためとはいえ親族が後見人になろうとすると疑ってかかられて悲しくなったとの感想も側聞しています。
 認識能力が急に低下してしまい緊急に保護が必要となり、法定後見に頼らざるを得ないケースもあると思われますが、本人保護という制度本来の趣旨からすれば任意後見が望ましいのは確かです。何らかの兆候がみられた時点で、速やかに対応することをお勧めします。

 後見制度は整備されてから時間的に短いせいもあってか、あまり使い勝手が良いとはいえない側面がありますので、この制度を利用する際には後々後悔しないよう慎重に行う必要があります。本事案からすると、一度審判申し立てをしたら、もはや引き返せないと心得るべきものなのかもしれません。

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