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【事 案】 後見人は、被後見人から贈与を受けることはできるか?

【結 論】 親族や後見監督人の同意があれば贈与を受けられるが、なお本人は取り消すことができる。(最判S38.10.10)

 被後見人は制限行為能力者にあたり、事理弁識能力を欠く常況から事理弁識能力が不十分まで、本人の認識能力の程度によって成年被後見人、被保佐人、被補助人の3つに法律上分けられています。
 程度は人によって様々ですから、きっちり区分するのは事実上困難です。さらに認識能力は常に一定とは限らず、場所や時間によって状況が良いときと悪いときが交錯する「まだら」状態もめずらしくありません。

 そのような不安定かつ不連続な状態で、継続的に本人を保護するにはどうしたらよいかが問題になりますが、方法のひとつに任意後見契約があります。 任意後見の契約は、本人の能力が不十分になる前に結ぶものです。親族でも法律専門家でも、誰と契約してもかまわないため、家庭裁判所が一方的に決めてしまう法定後見よりも、制度本来の趣旨に沿うものとされています。

 任意後見の場合は、本人の症状が進行したら親族や見守り監護を受託している者から家裁に後見監督人の選任が申し立てられ、後見制度が発動されます。そうすると契約に基づいて本格的に身上監護や財産管理がはじまり、本人は財産処分行為ができなくなります。このように後見制度が発動された後で本人がした、財産を贈与する契約は有効かが問題となります。

 本事案は、未成年者が後見人に不動産を贈与し登記も済ませた。
 贈与については、後見監督人もその親族も同意していたので一応贈与は認められた。ところが後に病状がよくなって行為能力者となった本人が、贈与契約を取り消して所有権移転と登記抹消を求めたものです。被成年後人が後見人に贈与したケースとは若干違いますが、制限行為能力者が行為能力者となったとき、前にした贈与を取り消せるかという問題なので、被後見人の贈与についての判例として引用されています。

 最高裁は、後見監督人が被後見人を代理して当該行為を成立させた場合でも、またその行為について親族会の同意があった場合でも、被後見人は取消権を有するとしました。ここでいう取消権は、後見人が被後見人の財産又は第三者の権利を譲り受けたときは、被後見人は取り消すことができるという被後見人を保護する民法上の規定です。
 代理権をもつ後見人が、被後見人から贈与を受けることは利益相反行為ですから無効になるのが原則です。しかし色々な事情がありますので、被後見人の安定した生活が将来的に保証される場合には、相続人や後見監督人が同意すれば贈与を受けることも一応可能と考えられています。

 ただ、その贈与には本人の意思は反映されていません。前述のとおり、成年被後見人や被補佐人、被補助人の認識能力はひとそれぞれで異なり、時間や場所によって変わる「まだら」な場合もあって様々ですから、正常に近い状態に戻らないとはいえません。
 一般に贈与は履行が終ってしまえば返せとは言えませんが、制限行為能力者本人が正常に戻ったとき本人が返せと言っているのにそれを認めないのでは、はなはだしく本人の保護を欠いてしまいます。

 錯誤や取消しがらみの争いでは、当事者の意思と取引の安全が比べられることが多いのですが、任意後見人を受任する場合には、本人保護に極めて神経をつかう必要があります。なお、法定後見で後見人を受任した法律家が、本人の財産を着服したという事件が後を絶ちませんがこれは埒外のはなし、法律に関わるものとして極めて恥ずかしいことです。

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