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【事 案】 別居した夫から建物を明け渡せと請求されたら、妻は家を出て行かなければならないか?

【結 論】 建物の所有権や賃借権が夫にあっても、権利濫用にあたるときは明渡さなくともよい場合がある。(最判H7.3.28)

 夫婦仲が悪くなって別居状態になってしまったとき、出て行かなかった側に土地建物の所有権や賃借権があるときはこのような問題は希です。しかし出て行った側が土地建物の所有権をもっていたとき、建物を明け渡せと言ってきたらどうするか。本事案は、夫が家を出て行った後で自ら土地建物の賃貸借契約を解除し、妻に明渡しを請求したものです。なお、土地建物の所有権は夫が取締役を務める会社にありました。

 原審の東京高裁は、会社の財産と取締役たる夫の財産とは明確に区別されており、会社法人格が形骸にすぎないということはできない。夫と妻との婚姻生活に関する事実をもって、明渡し請求が権利の濫用にあたり妻に対する嫌がらせ的な意図があるとは認められないとして、夫の明渡し請求を認めました。
 これに対して最高裁は、明渡し請求が権利の濫用に当たるか否かは、法人格が形骸にすぎないか否かによって直ちに決せられるものではない。建物明渡しが実現されることによって、会社の受ける利益と妻の被る不利益等の客観的事情のほか、建物の明渡しを求める会社の意図と、これを拒む妻の意図等の主観的事情をも考慮して決すべき物であるとして、明渡し請求を認めませんでした。

 会社は法人として認められ、個人とは別の権利義務主体であることを重視すると高等裁判所のような結論となりますが、権利濫用にあたるか否かを判断するには、最高裁の言うように当事者の行為や主観的事情も考慮すべきと思われます。
 本事案で、会社は赤字続きで資金繰りに困っていたとの事情はあったものの、夫は会社の代表者と賃借人の立場を兼ねて賃貸借契約を合意解除したこと。夫は、家裁から妻に生活費を交付せよとの審判を受けていたにも関わらず、それをしなかったことなどの事情もありましたので、法人は別人格をもつとの理由だけで、権利濫用でないとする高裁判決を破棄した最高裁の判断は妥当と考えます。

 建物が夫婦の共有財産の場合、ローンが残っている場合、所有権はないが片方も取得費を負担していた場合など様々なケースが考えられます。財産分与や不当利得返還請求、贈与契約無効など事案に応じた処理方策が考えられますが、権利濫用の法理を使うのであれば、より個別具体的な事情を考慮しなければなりません。
 そして個別具体的な事情ということになると、夫婦のどちらが別居原因をつくったか、別居に至った後それぞれどのような対応をしたか、もはや夫婦関係が修復できないのか、子の福祉から問題はないかなど検討すべきことが色々ありますので、形式だけで判断せずていねいに事情を吟味する必要があります。

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