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【事 案】 不動産売買契約で宅建業者に履行の着手があったら、期日前でも手付解除はできないか?

【結 論】 宅建業者が売主ならば、業者が履行に着手した後でも期日前なら手付解除できる。(名高判H13.3.29)

 不動産は高額な取引なので、一般的に契約時に手付金が取り交わされるのはご存じのことと思います。手付解除とは、契約した後でもその売買契約を解除できるという制度です。ただし、買主から解除するときは契約時に払った手付金を放棄し、売主から解除するときは手付金の倍額を買主に支払わなければなりません(手付倍戻し)。
 さらに民法では、手付解除ができるのは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでとされています。
 では、契約書に「相手方が契約の履行に着手するまで、又は●●年●●月●●日(手付解除期日)までは、売買契約が解除できる」と書かれていたとき、一方が履行に着手してしまった後では手付解除ができないのでしょうか。

 本事案は、売主の宅建業者と一般人の間で、宅地を1,880万円で売買する契約を結び、買主は30万円の手付金を払った。その後買主は、30万円を放棄して売買契約の解除を申し入れた。しかし宅建業者はすでに契約の履行に着手したので、売買代金の2割376万円を支払えと主張したものです。
 買主は、宅建業者が契約の履行に着手したとはいえ、まだ手付解除期日前なので解除できると主張しました。たしかに30万円で済むところを、376万円払わなければならないとすれば大変です。

 この事案で第一審の地方裁判所は、宅建業者の主張を認めましたが、高裁は買主の主張を認めて手付解除を有効だとしました。
 その理由として、宅建業法は買主に不利な特約を無効としていること。契約書の文面からみて、特別の知識を持たない通常人にとって、「又は」という文言は履行の着手の前後にかかわらず手付解除期日までは解除できると理解することは至極当然であること。
 宅建業者はいずれか早い時期までしか解除できないと主張しましたが、そう解釈すると手付解除期日を特約として加えたことが何らの意味をもたなくなります。

 たしかに、契約はなるべく有効・可能なように解釈すべきであって、解除が許される手付であっても双方当事者の利益を考える必要があります。しかし宅建業者と通常人が取引をする場面では、通常人保護の要請が大きいという判断があったと思われます。
 また宅建業者は、契約書は関連団体が編集出版している「ハンドブック」の雛形をそのまま使ったから免責されると主張しました。しかし本サイトの【その他問題、契約002】でも紹介しているように、最近ネットや書籍から契約書のひな形を容易に手に入れることができますが、そのまま使ってしまうと思わぬことろに落とし穴があります。

当事務所がお手伝いします売買契約書の作成、手付解除の申し入れ、合意書等の作成