全画面で読む     全画面を閉じる
【事 案】 男性用カツラの顧客名簿を退職時に持ち出して営業されたら、営業の秘密を害されたといえるか?

【結 論】 男性用カツラの顧客名簿は営業の秘密にあたり、名簿の廃棄と損害賠償請求ができる。(大地判H8.4.16)

 不正競争防止法は商品の表示や形態を模倣したり、いわゆるコピーガードを外す装置等の譲渡行為を不正競争にあたるとして禁じています。加えて営業秘密の不正取得と、その営業秘密を使って営業することを禁止しています。

 本事案は大阪の男性用かつらを販売する会社に約8年勤務し、店長までしていた者が経営者と対立し自宅謹慎を命じられた。これに嫌気がさして会社を退職したが、その際に約400人分の顧客名簿をコピーし、自分が立ち上げた会社の営業に使ったものです。
 当該名簿には氏名、年齢、住所のほか顧客の頭髪の情報が記載されていたので、従業員以外の者はアクセスできないようマル秘の印を押して秘密として管理され、来客からは見えないよう営業店のカウンター内に保管されていたものです。

 会社側の主張によれば、男性用カツラの顧客を獲得するには理容業からの紹介、路上でのセールス、友人などの口コミ紹介、新聞やテレビによる宣伝広告などがあるが、理容業からの紹介は非常に少ない。
 また他人に知られたくない事項なので、路上セールスや友人などの口コミ紹介も期待できない。結局新聞やテレビによる宣伝広告によるしかなく、多額の費用を必要とする財産である。
 その管理においても営業秘密として認識するに十分な注意をしていたのだから、退職時に窃取コピーして自分の営業に使ったのは違法だと主張しました。

 裁判所はほぼ会社の主張を認めて、名簿の写しによる営業の停止、名簿の廃棄、損害賠償として約50万円の支払いを命じました。

 会社の営業秘密保持や競業禁止については、一般的に入社時の誓約書や就業規則で決めることができます。また退職時にもそれらを誓約させることができますが、従業員の職種や身分、従業員への秘密保持教育の情況などによって誓約書の内容や範囲が違います。
 本事案で、入社時に会社と従業員に取り決めがあったか否かは明らかではありませんが、会社の管理状況からすれば秘密として管理されており、営業活動に有用で公然と知られていない内容であることは肯定できるでしょう。

 顧客名簿が営業秘密として認められた例としては、他にダイレクトメール(東地判H.7.23)、墓石販売(東地判H12.11.13)などがあります。社会通念上あまり他人に知られたくない性格の顧客名簿は価値が高く、営業秘密性が認められることが多いようです。
 一方認められなかった例として、顧客の商品購入傾向(大地判H15.7.24)、イベント企画会社の顧客リスト(東地判H16.4.13)、薬局の薬品リスト(東地判H17.2.25)などがあります。

 技術や営業について、とくに退職者が知っている営業秘密が問題になります。
 退職者と会社の間で、競業をしないことや秘密保持について契約書を取り交わすのはもちろん大切です。ただし退職者に対してあまりにも大きな義務を負わせると、不意打ちになって退職者に対する報復行為や権利濫用だと言われかねません。雇用契約時、就業規定、退職時それぞれ被用者にどのような秘密保持や競業禁止を課すか、バランスがとれた内容で設計することが肝要です。

当事務所がお手伝いします知的資産経営調査、不正競争防止法に関する契約書や社内規約の作成、損害賠償申し入れ、示談・合意書作成