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【事 案】 スローガン「ママの胸より チャイルドシート」は、「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」の著作権を侵害するか?

【結 論】 前者スローガンは、後者交通標語を複製ないし翻案したものとはいえない。(東高判H13.10.30)

 苦労してつくった作品に似たものが出回っているとか、真似をしているといった著作権侵害に関するトラブルはかなり多いと思われます。そのような問題を扱うときに、まず最初にそして一番頭を悩ませるのが著作物にあたるかという点です。

 条文には、著作物とは思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものと定義されています。でも、思想又は感情、創作的、表現などとひと口に言っても具体的にいったい何を指すのか言葉の意味までは書かれていません。
 ひと通り、文化庁が出している「著作権テキスト」で解説されていますが、具体的に何が著作物にあたるかを判別するのは実はたいへん難しく、これまでの判例をていねいに探してどんな解釈をしているか調べて、そのイメージを把握する必要がありそうです。

 本事案は、秋の交通安全週間用に俳句調で交通安全標語をつくって応募したところ、優秀賞に選ばれて新聞の第一面にも掲載された。一方、損害保険協会が交通事故防止キャンペーンのため広告代理店に委託して作ったスローガンが前者であり、これもテレビ広告となって好評を博した。
 そこで俳句調の交通安全標語をつくった作者が、損保協会と広告代理店に対して損害賠償請求した次第です。
 まず、俳句調の交通安全標語が著作物と言えるかが問題となりました。

 前審の東京地裁(H13.5.30)は、筆者の個性が十分に発揮されているとして著作物性を肯定しました。ボク安心という語が冒頭に配置され、幼児の視点からみて安心できるとの印象、雰囲気がある。ボクとママという語が対句的に用いられ、家庭的なほのぼのとした車内の情景が効果的かつ適格に描かれていることなどが理由です。
 これに対して高裁は、後者に創作性(著作物)を認めましたが、創作性が認められるとしても全体としてのまとまりをもった5、7、5調の表現のみにあるという点にとどまるとしており、地裁ほど積極的ではありませんでした。

 一般的に交通標語には著作物性そのものが認められない場合も多く、それが認められる場合でも同一性や類似性の認められる(著作権が認められ保護される)範囲も狭い。このため標語やスローガンのケースでは、丸写しであるデットコピーの類の使用を禁止するだけにとどまることも少なくないと、著作物性を認めることに消極的な姿勢を示しています。
 その理由として、スローガンのようなごく短い交通標語は、ごく短いものであったり、ありふれた平凡なものであったりして、思想ないし感情の創作的表現がみられないものが多いこと。交通標語の長さ及び内容において、内在的に大きな制約がある(故意にマネしようなどと思っていなくとも、結果的に同じようなものになってしまう)こと。交通標語は、もともと多くの公衆に知られることを本来の目的としていることを考慮する必要があるとしています。

 以上をまとめると、著作権法で保護されるべき著作物性の有無は、作品の長短や目的によっても異なるということかと思います。デッドコピーならともかく、他の作品が著作権を侵害しているかどうかを判断するときには、思想又は感情を他の作品が創作的に表現するにあたって、どの程度選択の幅があったかが判断材料のひとつにされることになります。
 著作権法に関する判例は下級審が多く、探すにもひと苦労、解釈を理解するのにまたひと苦労というケースが多いですが、わりと身近な事案が多いので、これから丁寧に追いかけていくことにします。

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