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【事 案】 健康保険組合は、事故によるケガの治療費負担分を常に加害者に請求できるか?新ネタ

【結 論】 被害者が医療費の給付を受ける前に賠償金を得ていたときは、請求できないことがある。(最判H10.9.10)

 業務以外の理由で病気やケガをしたとき、交通事故や暴行事件によるケガでも健康保険を使って治療できます(ただし、第三者の行為による傷病届の提出が法律で義務づけられています)。
 例えば、次のような対応が考えられます。
 A 交通事故の被害者になった。
 B 被害者は国民健康保険を使いたいと病院に言ったので、病院は健保を使って治療したが100万円かかった。
 C 病院は、被害者から30万円受取り、健保組合に70万円請求した。
 D 健保組合は、加害者に病院に支払った70万円請求した。

 本事案で問題となったのは、被害者が治療を受けるのに先だって、加害者から賠償金をもらっていたことです(正確には加害者が加入していた自賠責保険会社からもらった)。被害者が、ケガが完治する前に賠償金をもらうことに問題はありません。しかし治療を受ける前に、被害者が賠償金をもらっていたとしたら、健保組合は加害者に70万円請求できるかが問題となりました。

 これに対して最高裁は、次のように判示しました。
 被保険者(被害者)が、療養の給付を受けるのに先立って、保険会社(本事案では自賠責保険会社)から損害賠償額の支払を受けた場合には・・・被保険者の第三者(加害者)に対する損害賠償請求権は、その内訳のいかんにかかわらず、支払いに応じて消滅し、保険者(健康保険組合)は、療養の給付の時に残存する額を限度として、右損害賠償請求権を代位取得するものと解すべきである。

 整理すると、交通事故などの被害者が、病院で治療費を精算する前に損害賠償をもらってしまっていたら、健康保険組合は加害者に対して請求できないということです。つまり被害者は賠償金をもらった時点で、治療費を払う資力があったはずだから、被害者の請求権は消滅している。健保が肩代わりする必要は無かったし、請求権が消滅している以上健保組合は加害者に請求できなくなってしまった。
 そうなると、事故内容や健康保険組合の判断にもよりますが、健保組合は被害者に対して負担分を請求する可能性も出てきます。被害者は加害者から損害賠償を受け取るときに、何らかの示談行為をしていたでしょうから、その内容を健保組合に報告しなければならなかったのですね。気の毒ですが、被害者は賠償金と健保給付の二重取りをしてしまったので致し方ないと言えます。

 被害者に治療費の二重取りをさせないため、国民健康保険法64条ないし健康保険法施行規則65条は、交通事故など疾病以外が原因で治療を受けたときは、健康保険組合に「第三者の行為による傷病届」を必ず提出することを義務づけており、この届けを出さなければ不正受給になってしまいます。本事案では、被害者は健保組合に届けを出していたと思われますが、それでも損害賠償の額と受け取る時期によっては、後で健保組合から負担分を返せといわれる可能性があります。

 日本の健康保険は社会保障のひとつで、誰もが医療サービスを受けられる優れた制度ですが、これを維持するための費用14兆円のうち約10兆円は国と地方の税金で賄われており、数%パーセントの消費税分にあたります(平成24年度、厚生労働省資料)。財政難から社会保障に対する世間の目が厳しくなっていますので、第三者の行為による傷病届を出さないときは、被害者が健保組合から医療費を返還請求されるケースは増えていくものと思われます。場合によっては、受給資格の停止などペナルティが課されるリスクも覚悟する必要があるでしょう。

当事務所がお手伝いします第三者の行為による傷病届書面作成、示談書作成、事件記録作成<