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【事 案】 従業員がうつ病で自殺したとき、従業員の性格や家族の責任をしんしゃくして賠償金を減額できるか?

【結 論】 従業員の性格が通常想定される範囲、自らの意思で仕事をしているときはできない。(最判H12.3.24)

 平成2年に大学を卒業して広告代理店に入社した従業員が、入社2年目に自殺した事件です。
 会社は従業員に対して、業務の遂行に伴う疲労や心理的負担などが過度に蓄積して、心身の健康を損なうことに注意する義務を負いますから、これを怠ったときは損害賠償しなければなりません。本事案では、従業員は関係者との連絡や打合せ、企画書や資料の起案・作成を行っていましたが、昼間は打合せなどに忙殺され、企画書づくりは残業でこなさざるを得ないハードな生活を送っていた。これに対して会社が適切な措置をとらなかったというので、まず損害賠償請求は認められました。

 では、従業員がうつ病になりやすい性格だったときに損害賠償は減額されるか、また家族がうつ病になったのに気づいて自殺防止策をとり得たなら損害賠償は減額されるかが問題となりました。
 結論からいえば、本事案では裁判所は両者ともにしんしゃくできず、損害賠償の減額は認められませんでした。

 まず前者について、損害は加害者と被害者で公平に分担させるべきだとの原則から、被害者の性格的要因を考慮して損害賠償額を減額できるのですが(最判S63.4.21)、それは一定の限度に限られます。すなわち、被害者である従業員の性格が業務の内容との関係からみて、通常想定される範囲内にある場合には一定の限度を超えているとはいえず、むしろ業務の内容に問題があったのではないかとの結論になります。

 次に被害者が家族と同居していたとき、うつ病にり患し自殺するかもしれないと家族が気づいていて適切な措置をとっていたら、自殺に至らず損害賠償額が減額されてもよいのではないかということです。しかし被害者は入社2年目とはいえ、大学を卒業して独立の社会人として自らの意思と判断に基づいて仕事をしていたのですから、いくら家族が一緒に暮らしていたとしても、容易に被害者の生活を改善できるものでははないと言えます。

 他に、セクハラでも会社が責任を問われることがあります。性的な事実関係をいたずらに聞いたり性的関係を強要する、必要なく体に触る、わいせつな図画を掲示する。さらには従わない被害者を降格・解雇したり、不当な配置転換をするといった行為です。これらを放置すれば、加害者だけでなく会社が連帯して損害賠償を請求されることがあります。
 年間自殺者が3万人という時代にあり、かつデフレ経済で労働環境がいっそう厳しくなっているせいもあってか、前者のメンタルヘルスに起因する問題も深刻化しているでしょうし、後者のセクハラも2006年の男女雇用機会均等法の改正で、男女ともに被害者となり得ることになったためその範囲が広がりました。

 産業医の配置や心理カウンセラーなど直接的な対策はもちろんですが、ひとたび事件・事故が起きれば会社も大きな負担をせざるを得ないのですから、予防法務として法律専門家を労働環境改善にあたらせるのも一策ではないでしょうか。

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