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【事 案】 客観的には財産的損害のときでも、慰謝料請求(精神的損害請求)ができるか?

【結 論】 愛情利益や精神的平穏を強く害された特段の事情がなければ、慰謝料請求はできない。(東地判H6.6.17)

 不法行為や債務不履行で請求できる損害賠償には2通りあり、財産的損害と精神的損害(慰謝料)に分けられます。
 そして財産的損害は、さらに積極的損害(交通事故の場合なら治療費、通院費、退院後の監護費用など現実にかかったお金)と消極的損害(逸失利益ともいわれ、休業による損害や後遺症による損害)に分けられます。

 積極的損害は、不法行為や債務不履行によって実際に被った損害ですから、これを証明する客観的な資料として領収書などが必要になります。消極的損害は、その事件がなければ得られたはずの利益を失った(逸失利益)です。被害者の収入や業務内容などが考慮されますが、社会一般の標準的な根拠に基づいて算出されるケースが多いようです。
 これに対して精神的損害(慰謝料)には明確な算定基準が無いので、請求項目や額は比較的自由に決められます。また財産的損害が算定困難なときには、それも包括して慰謝料請求だけされることもあります。

 以上を大雑把に整理すると、損害賠償は(1)領収書が必要なものと、(2)一応給与明細などの根拠が必要なものと、(3)自由に決められる3つのものから構成されていることになります。そうするとその合計金額も常にきっちりした根拠で算出される訳ではないので、いくらを認めるかは裁判所の裁量で決められることになります。
 ただ裁判所の裁量といっても、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて、相当な損害額を認定できると民事訴訟法で決められていますので、裁判官の気分次第で決めて良いということではありません。飽くまでも法律に基づいて決めるのが立て前で、実務上は過去の事例を参考におおよその相場で決められることが多いようです。

 さて本事案は、車をぶつけられた被害者の自動車が全損したため、壊れたことで精神的損害を被ったと慰謝料を請求したものです。これに対して裁判所は、自動車は代替性のある物件で、被害者の愛情利益や精神的平穏を強く害されるような特段の事情が存する場合を除いては、財産上の損害賠償によっては回復し得ない精神的苦痛が残存することはないとして、慰謝料を認めませんでした。
 被害者側がとりあえず慰謝料名目でも請求してみたのか、壊れた自動車に無二の愛着があったのかは定かでありませんが、本事案では特段の事情は認められませんでした。これが例えば犬猫などのペットであれば、法律上は物なのですが、家族同様の存在で愛情利益や精神的平穏を強く害されたと主張して、特段の事情が認められれば慰謝料がもらえる可能性もあるでしょう。ただ本事案のような自動車では、仲々そこまでは言えず難しいと考えます。

 では慰謝料(精神的損害)と財産的損害は、常に画一的に決められるものなのかというと、どうもそうではないようです。すなわち、慰謝料は裁判所の裁量で決められますから財産的損害額があまりにも少ないときには、慰謝料を請求額より割増しして調整できます。これも交通事故の事案ですが、被害者の請求総額の範囲内でならば、請求額以上の慰謝料を認めることも可能だと判示したものがあります(最判S48.4.5)。
 例えば治療費で50万円、仕事ができなかった逸失利益100万円、慰謝料250万円の合計400万円を請求したが、逸失利益が50万円しかないと認定されたときでも、合計350万円ではなく慰謝料を300万円として加害者に合計400万円の支払いを命じるといった感じです。

 財産的損害は、前述のとおり領収書など客観的な資料によって積み上げられるものですから、事件によってはあまりにも被害者が可愛そうなケースもあり得ます。逆に、過大な請求は加害者を硬直させてしまい、事件の解決を遅れさせる原因ともなりかねません。事案の内容や事情をつぶさに把握し、事件と損害のバランスをとることも案件処理には大事なことと考えます。

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