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【事 案】 従業員が刑事上罰せられる行為をしたとき、法人やその代表者は責任を負うか

【結 論】 必要な注意を尽くしたことの証明がない限り、法人や代表者も刑事責任を免れない。(最判S40.3.26)

 民法では従業員(被用者)がした不法行為の責任を、他人を使用する者(使用者)も負うとされています。これは使用者責任と呼ばれ、条文もあります。
 一方刑法には、使用者に責任を負わせるという条文はありません。しかし個人情報保護法、著作権法、消防法、独占禁止法など多くの法律では、法人の代表者又は法人等にも懲役刑や罰金刑を科すとしています(ただし、法人については罰金刑のみ)。

 刑罰は「法律無くば刑罰無く、法律無くば犯罪無し」(罪刑法定主義)という刑法の大原則に基づかなければならず、法人の代表者や法人に刑罰を科すのは、この大原則に反する。したがって、法人等に刑罰を科す規定は憲法31条などに違反し無効だと、かつて主張されました。
 これに対して最高裁は、事業主が人である場合については、事業主に被用者らの選任、監督その他違反行為を防止するために必要な注意を尽くさなかった過失の存在を推定したものであって、事業主において右に関する注意を尽くしたことの証明がなされない限り、事業主もまた刑責を免れないから、両罰規定は無効でないと判示しました。

 すなわち、両罰規定によって、事業主や法人には過失があったことが推定される。推定は反証を許すものですから、事業主や法人は、過失がなかったことすなわちきちんと選任や監督していたことを証明すれば、刑責は負わない。しかし事業主や法人は、過失がなかったことの証明責任を負うということになります。
 このような見方をすると、事業主や法人は、オマケ的に罪を犯した従業員と共に処罰されるようにも思われます。しかし法人について証券取引法では上限5億円、消防法では上限1億円のの罰金刑が定められていますので、決して軽くはありません。

 刑罰である罰金と、民法の損害賠償とでは根本概念が違いますので、同列に論ずることはできませんが、民法にも両罰規定のように不法行為者の責任が代替される場合があります。例えば、責任無能力者の監督義務者の責任、土地の工作物等の占有者及び所有者責任、動物の飼い主等占有者の責任です。
 いずれも利益の存するところに損失も帰する、危険を支配する者が責任も負う、あるいは被害者救済のために、責めを負うべき範囲を拡大するものである点。過失責任として反証を許す代わりに、その証明責任を負わせるという点で法的に同じ構造になっています。

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