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【事 案】 父親の財布からお金を抜き取ったが、そのお金は父の友人のものだったとき告訴がなくても処罰されるか?

【結 論】 告訴がなくても窃盗罪として起訴され、処罰される。(最判H6.7.19)

 刑法では家族や親族のあいだで行われた窃盗、詐欺、恐喝、横領などの犯罪について、刑を免除する規定があります(244条親族間の犯罪に関する特例)。
 正確には配偶者、直系血族又は同居の親族との間で行われたときは刑が免除される。しかしそれ以外の親族との間で行われたときは、検察官は、告訴がなければ起訴(すなわち公訴の提起が)できないとされているのです。
 基本的に家族も親族も他人であり、犯罪は犯罪として処罰されるべきなのですが、比較的軽い財産罪は刑が免除されます。その理由は、親族間における財産罪は親族間で処理しなさいという、すなわち法律は家庭に立ち入らないという政策的なルールがあるからです。

 それでは父親の財布に入っていたお金が、実は父のものでなく父の友人のものだったとき刑は免除されるのか、また告訴がなければ処罰できないのでしょうか。
 この問題について最高裁は、244条が適用されるためには、親族関係は、窃盗犯人と財物の占有者との間のみならず、所有者との間にも存することを要するものと解するのが相当であるとして、刑の免除はなく告訴も不要だとしました。
 つまり盗んだ物の占有者も所有者も、両方とも配偶者や親族でなければ特例は適用されません。原則どおり刑の免除はなく、さらに告訴がなくても起訴されてしまいます。
 なぜこのような結論になるかというと、例えば窃盗罪なら物の占有者にも物の所有者にも、法律で守られる利益があるとされているからです。その結果、通常は占有者と所有者は同一人物でしょうが、例えば占有者が所有者から借りていたり、一時預かっていたり、占有者と他人の共有物だったりした場合には窃盗罪が成立します。

 自分の父親が持っているから父の物だろうと勘違いして盗んだ場合でも、この最高裁の判例からすると、通常どおり窃盗罪として処罰されることになるでしょう。ちなみにここでいう親族とは、民法に定められている親族と同様、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族をいい、かなり広い範囲で特例が適用されます。
 しかし家庭に法律は立ち入らないとはいえ、そこで窃盗が野放図に許されるべきものではありません。この特例でも刑が免除されるだけであって、犯罪が成立しないとは言っていません。家族間であっても窃盗や詐欺、恐喝罪は立派に成立しますが、ただし刑の免除という刑罰が科されるという理解が正しいと考えます。

 なお未成年後見人だった祖母等が、未成年者の預金を引き出して使ってしまった事件については、親族関係にあるか否かを問わず善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負う、家庭裁判所の監督を受けるなど公的性格を有するものであるとして、業務上横領罪の処罰を免れ得ないとされています(最判H20.2.18)。 当事務所がお手伝いします警察への被害届・告訴状作成