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【事 案】 電話代がタダになる機械を設置したが、1回試しただけで取り外したのに処罰されるか?

【結 論】 偽計業務妨害罪、有線電気通信妨害罪で処罰される。(最判S61.6.24)

 高野山の金剛峯寺で、地蔵の前に供えられた賽銭10円を盗んで窃盗罪に問われた事件で、大阪高裁は1年の実刑判決を言い渡しました。10円とはいえ刑事責任は軽視できないとしつつ、第一審判決1年8か月は重すぎるとして減刑したものです。
 何が問題かというと、被害が軽微な場合にも刑事犯として処罰されるのかということです(可罰的違法性)。

 他にも似たような事件がなかったか探してみたところ、電話機器の事案がありました。マジックホン事件と言われている有名な判例です。
 事案は相手側の電話代をタダにするという機械を、会社経営者が友人から2台買い受けた。現在でいうところの0120サービスにあたるような性能をもつ機器ですが、誰も課金されないという代物。
 取り付けて公衆電話で試したところ10円硬貨が戻ってきたので、やはり法律に触れるのではないかと不安になり、会社の顧問弁護士に相談した上で直ちに取り外し、その後使用することはなかったという事件です。

 起訴された社長は、試験的に1回試しただけで機械を直ちに撤去したのだから処罰に値しない。またこの機械を売りに来た友人には恩義を感じていたこと、その友人が弁護士に聞いたら法律違反ではないと述べていたこと、警察の捜査に積極的に協力したことなどを挙げて無罪を主張しました。
 これに対し第一審では無罪でしたが、第二審の高裁と最高裁は、たとえただ一回通話を試みただけで同機器を取り外した等の事情があったにせよ、それ故に行為の違法性が否定されるものではないとの理由で、偽計業務妨害罪及び有線電気通信妨害罪を言い渡しました。

 このような犯した罪が軽微なために無罪とされた例には、「一厘事件」や「旅館たばこ買い置き事件」などがあります。
 前者は、明治40年当時たばこ耕作者が、たばこの葉価格一厘相当を自らきざんで喫煙したもの。後者は同じくたばこがらみの事件で、旅館が買い置きしていたたばこを無免許で客に販売したものです。
 これらが無罪になったのは、あまりにも犯した罪が軽微なため超法規的に違法性が無い(阻却される)とか、そもそも犯罪の構成要件にあたらないと理由づけられています。
 本事案のマジックホン事件でも、同様の意見を述べて無罪とすべきだと主張した裁判官もいましたが、多数決で有罪となった次第です。

 犯罪が成立するか否かは、起訴された罪そのものの軽重だけでなく常習性や被告人の反省の程度などが考慮されますが、いずれも本事案では、本当に処罰するだけの内容だったのか微妙かと思われます。直ちに取り外したり捜査に協力したとはいえ、2台も購入した点が心証を害したのでしょうか。
 窃盗や万引きなどで警察に通報するか告訴するか、犯罪行為の軽微さなどから悩ましい場面はあるかと思いますが、少なくとも世間一般では、金銭については厳しい見方をしていると思われます。
 しかし10円とはいえ賽銭を盗むというのは罰当たりな話、因果応報かもしれません。

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