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【事 案】 バス停のベンチにあった他人のカメラを、黙って持ってきて使ってしまうのは何罪になるか?

【結 論】 少なくとも占有離脱物横領罪(ネコババ)が成立し、窃盗罪にもなり得る。(最判S32.11.8)

 窃盗罪も、かなり身近な犯罪と言えます。これと似た犯罪に占有離脱物横領罪(遺失物等横領罪、いわゆるネコババ)がありますが、果たしてこれらはどこが違うのでしょうか。
 まず両者は、刑罰の重さが違います。
 占有離脱物横領罪は1年以下の懲役又は10万円以下の罰金ですが、窃盗罪は10年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされていますから、どちらの罪かで天と地ほどの差があるのです。

 したがってどちらの犯罪になるのかは、被疑者にとっては大問題でしょう。
 始めにこの二つの犯罪が成立するための条件、いわゆる犯罪の構成要件をみてみます。
 占有離脱物横領罪は、遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者と条文に書かれています。
 犯罪の客体は占有を離れた他人の物で、遺失物や漂流物がその例です。これを権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思(最判S24.3.8)を実現することとされています。
 すなわち、他人の落とし物や忘れ物を、さも自分の物であるかのように使ったり売ったりすれば、ネコババしたといわれてもしょうがないことになります。

 では窃盗罪はどうかといえば、他人の財物を窃取した者と条文に書かれています。
 犯罪の客体は他人が事実上支配する財物であり、これを占有者の意思に反して、財物に対する他人の占有を排除して、自己又は第三者の占有に移すこととされています。なお、窃盗罪が成立するには、権利者を排除して、経済的用法に従い利用、処分をする意思が必要とされています。すなわち、他人の財物を経済的に有益に使いたくなって(欲しくなって)、他人の事実上の支配を排除して(盗んで)、自己の支配下におけば窃盗罪になります。

 バス停のベンチにあった他人のカメラ(財物)を、黙って持ってきて(事実上の支配を排除した、自分には権限が無い)、使ってしまった(自分の物同様に使った、経済的用法に従い利用した)のですから、どちらの罪にも該当しそうです。
 しかしどちらになるかで刑罰の重さが全然違いますから、その判定は厳格にされなければなりません。
 問題となった事案では、観光地の昇仙峡行きバス待ちの被害者が、カメラを傍らに置いたが、行列とともに前方に移動してしまい、その後置き忘れたことに気づいて引き返したところカメラはすでに持ち去られていた。その間、行列が動き始めてから約5分、忘れた場所と引き返した場所の距離は約19.5mでした。ちなみにバスの長さは10mぐらいありますから、バス2台分ぐらいの距離にあたります。

 持ち去った犯人は運悪く捕まって窃盗罪に問われたのですが、当然それは拾ったものであって盗んだものではないと主張するでしょう。
 これに対して裁判所は、刑法上の占有は人が物を実力的に支配する関係である。その支配の態様は物の形状その他の具体的事情によって一様ではないが、必ずしも物の現実の所持又は監視を必要とするものではなく、物が支配力の及ぶ場所に存在すれば足りると判示しました。
 そして占有者の支配内にあるか否かは、通常人ならば何人も首肯するであろうところの社会通念によって決すると。
 つまり対象となる物と所有者の関係については、物は所有者の支配力が及ぶ場所に存在すればよく、一見置き忘れたと見えるものであっても支配力が及んでいるときには窃盗罪になるとのことかと思われます。
 本事案では、社会通念からして、カメラはバス乗客の誰かが一時その場においた所持品であることは、何人にも明らかに分かるでしょうと。したがってネコババではなく、窃盗罪にあたるとされました。

 忘れ物について窃盗罪が認められるケースは多いようですが、窃盗罪にならなかったものとしてスーパーのベンチに財布を忘れた事件があります。
 6階ベンチでアイスクリームを食べた際に財布を置き忘れ、その後地下の食品売り場で気づいて戻るまでの時間が約10分、移動距離は6階から地下1階です。スーパーという公衆が自由に出入りできる場所でもあり、社会通念上、客観的にみて所有者の支配力が及んでいるとはいえないとの理由で、窃盗罪にはなりませんでした。

 なぜ窃盗罪と占有離脱物横領罪(ネコババ)には、懲役10年と1年ほど差があるかというと、ネコババは誘惑に駆られがちだからとされています。しかしスーパーの事件では、占有物離脱横領の罪を問われてネコババとはいえ懲役5か月になってしまった。これは普通の生活感覚からすれば、耐え難い長さといえるのではないでしょうか。
 もちろん落とし物、忘れ物だからといって軽い気持ちで自分の懐に入れた方が悪い。しかし逆にいえば、そのような犯罪者をつくりださないよう、落とし物忘れ物を防ぐべく身の回りには十分注意すべきです。

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