全画面で読む     全画面を閉じる
【事 案】 政党の活動報告ビラを各戸に配布するため、マンションに立ち入った行為は住居侵入にあたるか?

【結 論】 管理組合の意思に反して立ち入ったときは、住居侵入罪が成立する。(最判H21.11.30、H20.4.11)

 郵便ポストには毎日のようにチラシが投函されてきますが、ポスティングをするひとは住居侵入にならないのでしょうか。身近に起こり得る犯罪から、住居侵入罪について考えてみます。

 事案は、被告人はマンションの二階から上にある住宅のドアポストに、政治活動のビラを投函する目的で立ち入ったものです。マンション玄関には当マンション敷地内への立ち入り禁止、防犯カメラ設置録画中、チラシ・パンフレット等広告の投函禁止などの張り紙があり、地元自治体の広報以外のチラシをポストに投函させないことが、管理組合で決定されていました。
 ビラを配布した者は、これら立ち入り禁止の張り紙の存在や内容を十分認識・理解していたはずですから、当然に住居侵入罪が成立しそうですが、そこで問題となったのは投函したのが政治活動に関するビラだったことです。

 すなわち、憲法は21条で表現の自由を保障しており、政治活動はとくに手厚く保護されるべき自由だとされています。そのためビラを配布した者たちは、住居侵入の罪を問うことが憲法に違反すると主張しました。これが布教活動だったら、憲法20条の信教の自由の問題として同じような主張をしただろうと思います。
 たしかに表現の自由とか信教の自由は重要な人権ですが、そのためなら勝手に他人の住居に立ち入ることが許されるのか。

 この点について裁判所は、政党の政治的意見を記載したビラの配布は表現の自由の行使ということができる。しかし憲法は表現の自由を絶対無制限に保障したものではなく、公共の福祉のため必要かつ合理的な制限を是認するものである。たとえ思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の権利を不当に害するようなものは許されないとの理由で、住居侵入罪が成立するとしました。
 ここでは、政治的意見の表明という自由と、住民が平穏な生活をする権利とが対立したわけですが、いくら自由だといっても、マンションの居住者の意思に反してまで立ち入ることは許されないということです。

 では政治活動のビラではなく、商業目的のチラシならどうでしょうか。
 憲法の解釈では、商業目的であっても一応表現の自由が保障されています。迷惑防止条例により罰則付きで禁止されている風俗系のピンクチラシなどは別として、一般的な商業目的のチラシは消費者の利益になる側面があるからです。例えば、スーパーの安売りなどのチラシは意外と役に立っているかもしれません。
 そうすると、商業目的のチラシを投函するために建物に立ち入ったからといって、すべて一律に住居侵入罪にあたるとはいえないことになりそうです。
 もっとも、その建物の住民や管理者の意思に反するような立ち入りは許されないとすべきです。

 住居侵入という犯罪がなぜあるのかといえば、説の対立はありますが、住居権者の意思に反する立ち入りは許されないとされています。したがって、マンションならば管理組合でチラシ配りの立ち入りを禁止を決め、その旨玄関に掲示しているときには、商業目的でも住居侵入罪が成立する可能性があります。玄関にとどまらず、住居になっている階まで上がり、ドアポストに投函した場合などはなおさらでしょう。
 また、チラシが玄関ポストに溢れんばかりになっているようなときは、放火される危険もありますので、チラシ配りが目に余るようであれば禁止することを決めて、掲示板で配布禁止を告知すべきと考えます。

 ちなみに住居侵入について、本事案は住居への立ち入りが問題となりましたが、侵入したのが住居ではなく倉庫だった場合には、もはや住居や建造物への侵入罪ではなく、窃盗罪の未遂となる可能性があります(土蔵への侵入につき、名高判S25.11.14)。土蔵や倉庫には財物しか存在しないので、物を盗む目的で侵入したことが明らかだからです。

当事務所がお手伝いします警察への被害届・告訴状作成、マンション管理組合の運営指導、管理規約作成、不審な居住者対策等のコンサルティング