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【事 案】 火事も無いのに「天罰で家が全焼するぞ」、「出火お見舞申し上げます。火元にご要心」という手紙は脅迫にあたるか?

【結 論】 前者の内容は脅迫にあたらないが(最判S25.7.3)、後者は脅迫になり得る。(最判S35.3.18)

 かつて行政書士事務所は警察署の周辺にたくさんありました。行政書士は運転免許更新の代書業だけでなく、事故や刑事事件を警察に訴える書類も作成していたからで、現在でも被害届けや告訴状の作成は行政書士の仕事になっています。そこで、刑事事件の事例も本サイトで取り上げることとしました。

 犯罪には、事件の端緒から捜査機関が介入する殺人罪のようなものから、被害者等が届けを出さないと捜査してもらえない名誉毀損罪や強姦罪などの親告罪まであります。また詐欺罪、背任罪、脅迫罪など犯罪の立証が難しい事件の被害届けや告訴状を書くときには、虚偽告訴罪で逆に訴えられないように注意しなければなりません。
 内容証明郵便などを出すときも、相手から脅迫や強要あるいは恐喝だなどと言われたら元も子もありませんので、まずは比較的身近な脅迫罪を取り上げました。

 事件が犯罪と言えるかどうかを判断するには、構成要件該当性、違法性、責任という三段階の検討が基本的に必要です。そこで脅迫罪の構成要件をみてみると、①生命、身体、自由、名誉又は財産に対し、②害を加える旨を、③告知して、④人を、⑤脅迫することが必要であり、本事案では②害を加えるにあたるかが問題となりました。
 脅迫罪でいう害は、将来生ずる害悪で、かつ告知する者がこれを支配できる内容に限定されています。過去の害悪では他人を怖れさせるさせることはできませんし、告知する者が実行を支配できない害悪では、運任せ天任せの嫌がらせか警告にすぎません。いくら他人を脅す気満々でも、単なる嫌がらせでは刑罰に値するとはいえないでしょう。

 前者の事案では「天罰」が家を全焼させるのですから、天罰を操れるはずもない手紙差出人は、脅迫罪にいう害悪を告知したことにならず犯罪は成立しません。では手紙を受け取った被害者側がとても熱心な宗教信者で、小心者だとしたら害悪になるのではとも思われますが、害悪にあたるかどうかは小心者でなく一般人を基準に判断されますので少し無理があり、結局犯罪は成立しません。

 次の事案の「出火お見舞申し上げます」は、「火元にご要心」と一体的にみればご丁寧な出火見舞の挨拶状とも思えます。しかし火事があった事実もないのに、突然このような手紙が舞い込んできたらどう感じるでしょうか。そこで、この手紙がどんな状況下で送られたのかを調べてみると、本事案では住民の間で対立抗争が熾烈を極めているなかで、一方の中心的人物に送られてきたとのこと。そうすると、一般人であれば自宅に火をつけられるのではないかと畏怖するのが通常であり、脅迫罪における害悪の告知にあたると裁判所は判断しました。

 後々紛争に発展しないよう事前に法律的な気配りをすることを予防法務といい、行政書士が得意とする分野です。このため、行政書士は作った書面の文言ひとつひとつから当事者の関係まで、刑法の構成要件や判例を意識して細心の注意を払っています。
 なお、割と身近な犯罪には名誉毀棄罪もありますが、これについては前記の生活004をご参照ください。

当事務所がお手伝いします警察への被害届・告訴状作成、内容証明作成