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【事 案】 男性が交通事故で死んだとき、内縁の妻は扶養利益の損失を主張できるか?

【結 論】 男性に扶養されていたときには、請求できることがある。(最判H5.4.6)

 内縁関係では夫婦同氏、姻族関係、子どもの嫡出性はもとより相続も認められないのが原則です。
 しかし内縁関係において一方が死亡したとき、残された方が何ら救済を受けられないとすれば酷なはなしです。そこで内縁にも法律上の婚姻に準ずる関係を認めようとする流れが生まれました。例えば鉄道事故で死んだ内縁の夫から受け得るべき、扶養利益を損害として賠償請求したケース(大判大8.5.12)や、内縁関係の解消に対する慰謝料などです。

 本事案は、18年間内縁関係にあった夫が交通事故で死亡した。そこで内縁の妻が夫から将来扶養利益として得ることができた分について賠償請求し受給した。その賠償金が内縁の妻に優先的に与えられるべきか、あるいは相続人が優先すべきかが争われたものです。

 内縁関係だと相続は認められないのに、なぜ将来の扶養利益は認められるのかという問題がまず出てきますが、これは前述のとおり内縁関係にも法律上の婚姻に準ずる関係を認めようという判例の積み重ねによるものと言えます。本事案においても最高裁は、内縁の配偶者は、自己が他方の配偶者から受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として賠償請求ができると判示しました。
 ただし、内縁の妻と本妻が同時にいるようなときは、もはや重婚関係類似の状態ですからよほど特殊な場合でなければ内縁の妻の出番はないと思われます(本サイトの【相続019】参照)。

 したがって内縁の妻が出てくるのは基本的に本妻がいないケースですから、扶養利益と相続財産の関係を争う当事者は、内縁の妻と子どもらということになります。
 そこで次に問題となったのが、扶養利益と相続財産の優先順位と取り分です。

 相続人である子らは扶養請求権が仮に認められるとしても、死者の逸失利益から内縁の配偶者の得べかりし将来の利益を控除した残額を相続財産とすることは、相続の基本原則に反すると主張しました。
 つまり、交通事故で死亡した男性に対する賠償額は決まっていたのですが(本事案では自動車損害賠償保障による賠償金でした)、内縁の妻に対する扶養利益をとった余りを子らの相続分とするのはけしからんということです。

 たしかに逸失利益は男性が生きていれば男性自らが主張できますので、当然に男性が受け取ることができ、結果として通常は相続財産になります。その相続の可否について裁判所は、死者にも賠償請求権があるとの見解(相続肯定説)をとっていますが、これに対しては生前に被害者と交際がなかった者に望外の利益を与えるのは(笑う相続人)不合理だとか、即死したときでもケガと死亡との間に時間があったとするような解釈は不自然だと批判されてきました。
 しかし笑う相続人を認めないとすれば、逆に笑う加害者を認めることになって不合理であり、瀕死のケガと死亡とのあいだに時間を認めることがさほど不合理とはいえない。むしろ重篤なケガの方が、死亡したときよりも逸失損害が多額になるケースもあるので、死亡したときの方が加害者を有利にしてしまうおそれがある。交通事故に限らず不法行為を抑止する便法として、裁判所は相続を肯定しているものとみられます。

 いずれにせよ扶養利益か相続財産か、いずれを優先すべきかは当事者にとって重大問題になります。
 結局最高裁は、内縁の妻の保護を優先しました。
 すなわち、死亡被害者の逸失利益は同人が死亡しなかったとすれば得べかりし利益である。内縁の配偶者の扶養に要する費用は右利益から支出されるものであるから、内縁の妻の将来の扶養利益は逸失利益から控除するのが相当であるとの理由です。そして賠償額からまず扶養利益を控除したのち、残りを子らの取り分としました。

 内縁関係とひとくちに言ってもその実態は様々で、本当に救済が必要なケースもあるでしょう。裁判までするかどうかはさておき、相続問題では注意する必要があります。

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